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私のやんごとなき王子様 理事長編

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 静かなビーチに二人並んで立つと、足元すぐ近くに波が打ち寄せて来て少し驚く。
 暗い海はどこからが水で砂浜なのかが分かりづらい。まるではっきりしない私の心の中みたいに曖昧だ。

「静かだね」

 そう言う理事長の声も静かで、私は思わず目をつぶって返事をする。

「はい、とっても」
「前に君は僕の知っている人に良く似ていると言ったのを覚えてる?」
「……はい」

 気分転換にと理事長を皆が作業をしている所を見に連れ出した日、食堂で話していた理事長の同級生だった女性の事だ。

「何でも一生懸命で、真っ直ぐで、人を気遣う優しい所がとても良く似ていると言ったよね」

 そう。私はその時その女性に嫉妬した。そして理事長の事を好きになり始めている事に気付いたのだ。

「僕は、その女性の事が好きだった……始めてあんなに誰かを好きになった。自分でも驚く位にね」

 ふっと笑う理事長の顔は、とても穏やかだった。

 チクリ……

 お腹の奥の方が痛む。また私は嫉妬しているんだ。

「だけど自分の気持ちを告げる事は出来なかったんだ」
「どうして、ですか?」

 聞き返してしまい、そんな自分に戸惑う。

「臆病だったから――僕は自分に自信が無かったんだ」
「そんな。理事長はとても素敵な方だと思います」
「ありがとう」

 遠くに宿舎の光があって、理事長の背後からその美しい姿をぼんやりと闇に照らし出していた。その様子はとても凛としていて穏やかで、私の目を惹き付ける。

「君の事は入学した時から知っていたよ。もちろん奨学金を受けて入学した生徒は全員把握しているし、それ以外の全校生徒の事も顔と名前は覚えるように心がけているのだけど、入学願書と奨学金試験の願書に添えられた君の学園の志望動機に驚いたんだ」

 そう言われて私は何を書いたかを思い出し、青ざめた。
 まさかそんな私みたいな個人の志望動機を覚えているなんて。しかもその内容は……