小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

私のやんごとなき王子様 理事長編

INDEX|26ページ/53ページ|

次のページ前のページ
 

9日目


 昨日の理事長との約束通り、私は今日も朝から理事長の部屋で仕事の手伝いをしていた。

 結局秘書さんはこちらに来る事が出来なくなってしまったらしく、本当は理事長だってこんな所にいる時間がないくらい忙しいんだって事を痛感した。理事長の変わりに学園での仕事を任されている秘書さんの苦労を思うと、一日でも早く理事長をお帰しした方がいいはずだ。

 理事長の様子はいつもと変わりなくて、私がドア越しに水原さんとの会話を聞いていた事にも一切触れて来なかった。きっと聞いていた事に気付いているはずだけど、そこは大人だから気付かなかった振りをしてくれているのかも知れない。

 水原さん……彼女はきっと今日も理事長のお手伝いがしたかっただろうな。

 大事な電話らしく、別の部屋にこもった理事長は今私のいる部屋にはいない。生徒指導部屋から借りて来たノートパソコンを使って頼まれた資料の清書をしながら、その内容の難しさに口をすぼめる。経営理念がどうのこうのという論文みたいだけど、理事長は経営者としてたまにセミナーを頼まれる事もあるからそれの資料だろう。

 そんなすごい人を私は好きになってしまったんだ……なんて愚かなんだろう。
 望みなんて無いのは十分承知している。理事長は大人で、私は子ども。それでも水原さんは勇気を振り絞って告白したのだ。私から見たら水原さんもすごい人で、理事長を好きになる資格を存分に持っていると思う。

 そう、私とはまるで違う―――それなのに、どうして理事長は私を手伝いに指名してくれるんだろう。

 頭の中が混乱し始めた頃、カチャリとドアが開いて理事長が戻って来た。難しい顔をして無言で机に戻ると、その険しい顔のままパソコンに向かった。
 私はキッチンへ向かいお湯を沸かし、ティーサーバーで紅茶を入れる。私に出来る事はお茶を入れる事くらいだ。

「理事長、紅茶です」
「ああ、ありがとう。小日向さん」

 やっと笑顔を見せてくれた理事長に、私も笑顔になる。
 窓の外はいつの間にか夕闇で、夕日も海の向こうに沈んでしまっていた。 

「うん、美味しい」
「良かった」

 私が外を見ていた事に気付いた理事長が、同じように外を見てほっとため息を吐いた。