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私のやんごとなき王子様 理事長編

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「どうして今日は僕の手伝いに来てくれなかったのかな?」
「――あ、それは……」
「昨日の事、怒っているのだったら謝るよ。本当にすまなかったね」
「いえっ、違うんです! そんな謝らないでください! 私怒ってませんから!」

 謝られたりしたらなんか惨めだよ。確かに急すぎてびっくりしたけど、嫌とかそんなんじゃなくて……

「本当かい?」
「本当です!」

 力いっぱい頷くと、理事長はほっとしたように小さく息を吐いた。

「良かった……それじゃあ明日は手伝ってくれるかな?」
「え? ――でも、私でいいんですか?」

 チラリと水原さんが消えた階段を見ると、それに気付いた理事長が急に真剣な顔になった。

「彼女はとても頑張って仕事をしてくれたよ。だけどね、僕は小日向さんにお願いしているんだ」
「は、はい……」

 今まで見た事の無い理事長の顔と声に、私はそれ以上何も言えなかった。
 優しいだけではない、学園の理事長としての尊厳に満ちた表情は、きっと仕事上で相手を一瞬にして射すくめてしまうだろう。それほど強い意志が見て取れた。改めて理事長と生徒である自分との差を思い知らされる。

「それじゃあまた明日。おやすみ」

 今度はいつもの笑顔に戻りそう言うと、理事長は静かにドアを閉じた。

「――おやすみなさい」

 そのドアに向かって挨拶をし、私はずっとドキドキし通しだった緊張を解くように体の力を抜いた。

 大人の男性を好きになるっていうのは、ものすごく大変な事なんだ。それなのに水原さんはしっかりと自分の気持ちを伝えて、本当に凄いと思う。だって私には出来ない。
 きっとこの好きだという気持ちのまま、理事長の姿を目で追いかけながら残りの学生生活を送るんだろう。

 叶わない恋をしてしまった事を一人嘆息しながら卒業するんだ。

 でも、本当にそれでいいの? 水原さんみたいに、思いを伝えたくて仕方なくなる時が来ないなんて、本当に言える?