私のやんごとなき王子様 理事長編
8日目
昨日からずっと私は理事長の事ばかり考えていた。
オディール役の生徒が体調不良で倒れて急遽代役を立てる事になり、実行委員や生徒指導担当者は朝から忙しそうに走り回っている。そんな中、仕事は思ったようにはかどらず、朝からミスをしてしまった。
こんな事じゃ駄目よね。一体何やってるんだろう、私……
「美羽?」
「さなぎ」
廊下をとぼとぼ歩いていると、丁度向こうからやって来たさなぎに声をかけられた。
「大丈夫? 何だかぼんやりしてたけど」
「ん……ちょっと集中出来なくて、ミスしちゃってさ」
窓枠に背を預けて二人並んで話し込む。本当はこんな暇さなぎにも無いだろうけど、私を心配して話しを聞いてくれる。本当、いつもさなぎには励まされてばっかりだな。
「理事長のお手伝い、辛い?」
実は今日も理事長のお手伝いを頼まれたのだけど、昨日の事でなんだか気恥ずかしくて理事長の手伝いを断ってしまった。さなぎはその事を知らない。
無言で首を振ると、私は情けない声で笑った。
「あはは、大丈夫。ちょっと疲れが溜まってるのかも」
「オディール役の子が急に変更になったりして、バタバタしてるんでしょ? 私んとこはそんなに影響ないからいいけど、無理しちゃ駄目だよ?」
「ん、ありがと……よしっ! さなぎの顔を見たら元気出て来た。頑張るぞ!」
「う〜ん、さすが私。この可愛らしい笑顔で美羽を元気にしちゃうなんて!」
首を傾げてウインクをすると、さなぎがポンと私の肩を叩いた。
「よし、それじゃあ今日も残り数時間、死ぬ気で働きますか!」
「おー!」
さなぎの檄を受けて私も拳を振り上げ、気合いを入れた。
理事長の事は取りあえず置いておいて、自分の仕事をしっかりやらなきゃだもんね!
手を振って廊下の向こうへ消えて行くさなぎに別れを告げ、私はようやく落ち着きを取り戻して歩き出した。
作品名:私のやんごとなき王子様 理事長編 作家名:有馬音文