私のやんごとなき王子様 理事長編
「とても美味しいよ」
「本当ですか? 良かった……」
理事長の部屋へ無事完成したおかゆを持って行くと、本当に眠っていたらしい理事長はゆっくりとベッドから起きて来た。そして私の手からおかゆの乗ったトレーを受け取り、ゆっくりと口に運んで褒めてくれたのだ。
おかゆだけでは栄養のバランスが悪いので、色んな野菜を細かく刻んで崩した豆腐と一緒に醤油で煮た煮物も一緒に出してみた。
消化にいいし栄養もバッチリ。
理事長も本当に美味しいと思ってくれているみたいで、あっという間にトレーの上の料理を平らげてくれた。
「君はいい奥さんになるね」
「えっ? あ、ありがとうございます……」
照れながらお礼を言うと、すっと伸びて来た理事長の手が私の後頭部を引き寄せた。
ええ!? ちょ、ちょっと!!
一瞬の出来事に私は混乱した。
だって、理事長が私の頭に、キ……
「りりり、理事長おっ?!」
裏返った声に真っ赤な顔で体を反らすと、理事長も驚いた顔をした。それからすぐに困ったような顔で、
「あ―――すまない。その、感謝の気持ちを表そうと思って……」
と言って頭を下げる。
「い、いえっ、あの、その、感謝の気持ちは美味しいという言葉でじゅっ、十分ですからっ! あの、これ洗ったら食事当番に行ってきます! 失礼します!!」
恥ずかしくてその場にいられなくなった私は、動揺したまま理事長の膝の上の食器を下げて部屋を飛び出した。
ドアを閉める瞬間、理事長が私を呼んだような気がしたけどそれどころじゃない。私は電光石火の早さで食器を片付け、ずうっとドキドキ鳴りっ放しの心臓を抱えたまま調理室へと駆け込んだのだった。
作品名:私のやんごとなき王子様 理事長編 作家名:有馬音文