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私のやんごとなき王子様 理事長編

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「いや、僕がまだ学生だった頃に同じクラスだった女性に似ているな、と思って」

 どんな所がですか? って聞こうと思ったけど、空回りして一人で落ち込む所。なんて言われたらショックだから黙って言葉の続きを待った。
 すると理事長も察したらしく、カップをソーサーに置いて続けた。

「何でも一生懸命で、真っ直ぐな所……そして人を気遣う優しい所がとても良く似ている」

 そう語る理事長の瞳はどこか遠くを見ていて、その女性の事を思い出しているようだった。

 チクリ……

 あれ?
 急に胸の辺りが疼いて、私ははっとする。どうやら理事長が思い浮かべるその見知らぬ女性に嫉妬しているみたい。
 情けない――

「そんな褒めていただけるような事は何も……」
「朝からずっと僕の体の事を気遣ってくれてるじゃないか。寝てないって分かるくらい、酷い顔をしているのかな?」
「いいえ、そんなことないですけど、ちょっと疲れてるみたいに感じたので」
「ほら、優しい」
「――――」

 これくらい普通の事なのに、私みたいな小娘にそんな言葉を掛けてくれる理事長の方が優しいと思う。
 恥ずかしさと嬉しさで手元のコーヒーカップを玩んでいると、そっとテーブルに誰かの指が降りて来た。

「お話中失礼します」
「おや、君は……」

 私と理事長が顔を上げると、そこに立っていたのは3年で同じ生徒指導担当の水原さんだった。

「理事長、お食事がお済みでしたら一度生徒指導の先生方と会議をしていただきたいとの事です」

 そう告げる水原さんの目は、理事長を捕らえて放さない。

「ああ、昨日の夜に全部終わらなかった分だね。分かった、行こう」

 そう言って立ち上がった理事長が、申し訳なさそうに私を見る。

「すまない小日向さん。先に僕の部屋に戻ってさっきの仕事の続きをしていてくれないか?」
「あ、はい。分かりました!」

 弾かれるように立ち一礼すると、理事長と水原さんが食堂から出て行く姿を見送った。

 ふうと息を吐いて座り、残ったコーヒーを飲む。
 あの目は知ってる。恋する人の目だ。
 先ほどの理事長を見る水原さんの瞳はまさにそれだった。