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高校生殺人事件 警視庁・香川美優と雪菜の事件簿(一)

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 美優は、野浦商事の受付で章介の所在を尋ねた。会社にいるということだった。章介は人事部の課長をしている。会議中でもないと言っているので、早速会わせてほしい旨を告げ、受付に取り次いでもらうように頼んだ。
「西岡は7Fの第二会議室でお待ちしております。そちらのエレベーターからお上がりになって左手の奥の部屋です」
 雪菜は、美優の後ろをトコトコ、雛のようについて行く。
「ここね」
 部屋に入ると、西岡は深々と頭を下げ、雪菜に目を留める。明らかに不審が見て取れる。当然である。西岡家で誰も注意しなかったのが、不思議なことなのだ。美優は雪菜をロビーに置いてくることを忘れた。しかし、
「あのう、その子は…」
「いえ、知り合いの子なんですが、どうしても置いてこれず…」
「はぁ」
 留守番できない年の子供ではない。苦しい言い訳だが西岡はそれ以上ツッこまなかった。
 がっしりした肩に人事部らしく人当たりの良い風貌と動作から見て分かる、柔らかい物腰を備えている。整った無表情の顔が真面目そうに思わせる。この人は、捜査に来ているから堅い表情なのではなくて、普段からこんな感じなのではないか。
「遊児のことで何度も申し訳ありません。生前からアイツは困った子でして、親に迷惑をかけることばかりしていました。殺されても仕方なかったのかもしれません。何しろそういう生活を送っていたのです」
 と、章介は言った。告別式の日程を控えていて、憔悴した感じがみられる。
「心中お察しします。警察も因果な商売でして、こんな時にお邪魔して…」
 と、美優が悔やみを言った。
「ありがとうございます。私の監督不行き届きで」
 美優は、十一日の午後七時から午後八時の時間、何をしていたかもう一度尋ねた。
「私のアリバイですか?その時間はまだ会社に残って仕事をしていましたよ。やらなければならない仕事があったので、十時まで残業していました。九時までなら、同僚と部下が一緒だったので証言してくれると思います」
 と、意外と素直に答えてくれた。美優は、同僚の名前をメモした。
「事件の前に、遊児君の周りに怪しい人物はいませんでしたか?」
 漠然とした聞き方であるが、決め付けて聞くよりこの方が有効だ。
「いつも、つるんでいる仲間以外で、遊児と親しくしている子ですか?」
「そうです、男の子でも、女の子でもかまいません。記憶にある子がいたら教えてください」
「いえ、知りません。悪い友人のことにしたって、私は妻から聞いただけで、遊児が教えてくれたわけではありませんし」
 西岡は、子供の友人を怪しい人物だと思っている。悪い虫がついたと嫌っていたに違いない。今は容疑者だから、つい浮かんだということもあるだろうが。それにしても、子供のことを知らないという親はいるものだ。優しそうだが、こと子供のことには無関心に見えると雪菜は思った。
「武藤さんという人はご存知ですか」
 と、美優は直截に聞いた。西岡は、一瞬言葉に詰まった。
「いえ。知りません。誰ですか?」
 西岡は、焦って口を尖らせる。
「こちらの会社で働いている方で、ある疑惑があるようなんです」
 美優は、武藤が誰かを知っている振りをしてカマをかけた。西岡の顔色がさっと変わるのを見て取り、さらに突っ込んでみる。
「会社の脱税のことなんですよ。あなたも一枚噛んでいるのじゃありませんか。正直に仰って下さらないと不利になりますよ」
「ちょっと待ってください。その話はもう終わっているのです。私と武藤で解決しました」
 西岡は、脅しに負けて観念した。
「では話してください」
 と、言って、美優は微笑んだ。西岡は、観念してしゃべり始めた。
「武藤とは同期入社なんですが、これまでは、あまり喋ることもありませんでした。ですが、去年の十二月に飲み屋で会いまして、私は人事部で顔を知っていたものですから声をかけたのです。その時に、暗い顔をしていたので、わけを聞くと、わが社の脱税のことで悩んでいると打ち明けてくれました。私は相談に乗ることにしました。その後は二人で社長に掛け合って何とかなりました」
「遊児君は脱税の件を知っていたのですか?」
「いいえ。知りません。手伝ってもらったことはありますが、知らないはずです。子供にこんなことは聞かせられませんよ」
 少し引っかかる。
「手伝ってもらった、ですか?」
「あぁ、お使いをさせたに過ぎません。脱税の後始末である提案するためで、武藤宛に手紙を書いたので、ポストに投函するように言いつけただけです。大切なものだからすぐ持っていきなさいと」
 問題はないのだと、手を振って否定する。
「メールでなく手紙なんですね」
「メールにしようかと思いましたけど、万が一他の社員に流れることがあるかもしれないと怖くなったので止めました。手紙なら焼いてしまえば済むと思ったものですから。考え方が古いだけかもしれませんが、そのほうが安心だったもので」
 美優は、そのあと二、三質問をして、
「ありがとうございました」
 と、言って二人は会議室を後にした。

 第七章 脱税

 武藤和也は、西岡章介と同じ会社の企画開発室の室長を務めていた。脱税の疑惑を掴んだにしてはヘンな部署である。刑事が続けざまに社員に用があるというので不審そうな顔をされたが企画開発室に通してくれた。こちらも在室だった。ここは美優だけで面会した。美優を残して雪菜は会社を出、あとで美優と落ち合うためスタバへ行った。
 しばらくして美優が店に入ってきた。商品を手に席へ着いた。
「ほら。アメリカン」
「どうもウソっぽかったのよね」
 美優は席に着くなり言い放った。余計なことを考えていたので、
「何がですか?」
 と、雪菜は頭の中が白くなりそうになりながらやっと聞いた。
「武藤和也は、脱税の件については、西岡章介と大体同じことを言っていたわ。でも、奥さんの姿が見えないからどこにいるのか聞いてみると、今年の五月一日から失踪しているって言うのよ。届けを出したのは三日になってからで、依然行方不明だそうよ」
 声に真剣さがこもっている。
「それで、何がウソっぽいんですか」
 雪菜には、話のポイントがつかめない。
「念のために遊児殺害の犯行時間のアリバイを聞いてみたんだけど、もちろん家には一人でいて、お風呂に入っていたから、証明する人はいないというの」
 遊児の件も聞いているのだ、美優は直感に従うところがある。
「それで?」
 と、また尋ねた。
「だから」
 と、美優は怒って言った。
「最後まで聞きなさいよ。妻の失踪は夫が犯人のケースが多いの。疑ってみるべきでしょ。それに妻がいれば証人になってくれたって涙ぐむの。演技よ。演技」
「それがウソっぽかったんですか?」
 雪菜には、美優の性格が悪いように思えたが、黙っておいた。
「偽善の仮面をかぶってるのよ。妻の失踪届けは偽装、犯行時間のアリバイはクロ。もしかしたら、二つの事件の犯人かもしれないじゃない?」
 と、美優は言った。推理が早すぎるのでついていけない。飛躍があるようにも思える。もう一度頭の中が白くなり始める。それでも、目をまわしながら雪菜は頭を働かせた。