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私のやんごとなき王子様 鬼頭編

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「わっ!?」

 二人掛けの座席はそんなに広くなくて、発車した電車の振動と引っ張られた反動で私は鬼頭さんに抱きつくような格好になってしまった。

「今日、俺達はどこへ行っているんだ?」
「―――う、海……です」

 私が海に行きたいと言って誘ったのだ。しかも車じゃなくて電車で行きたいと。
 だっていつも車ばかりだから、運転している鬼頭さんはずっと前を見ているし、たまにはこうやってのんびり電車に揺られてどこかに行きたいと思っていたのだ。

 海は別に泳ぎに行くという訳じゃなくて海のすぐ側にある水族館が目的なのだけど、ついでに海を見ながら食事をするのもいいかな。なんて思ってお願いした。
 鬼頭さんは私の答えを聞いてふうと小さくため息を吐く。

「お前は、自分が嫌いな奴の頼みを二つ返事で引き受けるか?」
「え? いいえ、引き受けません――」

 私が質問していたはずなのに、気付けばいつもの鬼頭さんのペースになっている。

「それじゃあお前はどうして俺と一緒に電車に乗っている?」
「……あ」

 そうか、そういう事か。
 鬼頭さんは私の事を好きだから、私のお願いを聞いて電車で海に行ってやってるって言いたいんだ。

 嬉しい……けど、違うの。

「気持ちは分かりましたけど、私は言葉が欲しいんです」
「なるほど、やっぱりお前はまだ子どもだな」

 そう吐き捨てるように言うと、鬼頭さんはゆっくり私を抱きしめた。