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私のやんごとなき王子様 鬼頭編

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 舞台は最高だった。

 鮮やかな衣装に身を包んだ出演者に美しい湖と白鳥。それをさりげなく、また堂々と映し出す照明と音楽。そのどれもが素晴らしかった。

 観客達はスタンディングオベーションで見事な舞台を讃えた。
 生徒が一丸となって作り上げたこの演劇祭は大成功を納めたのだ。

 私は感動で涙ぐみながら、すっかり閉じてしまった幕に向かって手を叩き続けていた。
 隣りでは鬼頭先生が相変わらずつまらなそうなフリで座っていたけど、本当は感動しているって私は気付いてる。この人はそういう人だ。
 ふと立ち上がった先生は涙を指で拭う私の肩に手を置き、

「全部の片付けが終わったら保健室に来い」

 そう言い残してさっさと会場から出て行った。
 きっとまた手伝いをさせられるんだろうけど、それでも嬉しい。先生と少しでも一緒にいられるならいいんだって、この間自分で決めたから。


*****

 コンコン……

「――失礼します」

 ようやく片付けが終わり、すっかり日も傾き出した頃に保健室のドアを叩いた。
 あの低くて良く通る声は聞こえ無くて、仕方なくドアを開けて中に入る。

「あ……」

 窓から差し込む夕日の中、鬼頭先生は机に体を預けて眠っていた。
 その姿に一瞬トクンと胸が鳴る。
 先生達は昨日遅くまで残っていたはずだ。真壁先生は学園に泊まったと言っていたから、もしかしたら鬼頭先生も一緒に泊まって仕事をしていたのかもしれない。
 疲れているのだろう先生を起こさないように、私はそっと近づきその寝顔を覗き込んだ。

 綺麗な顔……

 憎まれ口を叩くあの不適な目と口元はすっかり影を潜め、案外長いまつ毛とすっと通った鼻筋は思いのほか女性らしかった。
 女子生徒に人気なのも頷ける。

「―――寝ている人間の顔を遠慮なく覗くとは、随分といい趣味してるな」 
「わっ!?」

 突然パチリと目を開けた先生に、私は思わず仰け反った。
 ゆっくりと体を起こし、両腕を天井に突き上げて伸びをすると、先生は机の脇に置いてあった眼鏡を取った。