私のやんごとなき王子様 鬼頭編
「女は馬鹿で扱いやすくて、自分の思い通りに動かせると思い込んでいた俺は散々酷い事をしてきた。俺は二度と女に捨てられたりしない、俺が捨ててやるんだと。誰にも負けないで自分の足で歩いて、俺を捨てたあいつを見返してやろうと思っていた……だが、この学園でお前に出会って俺の考えが少しだけ変わった」
「私……? ですか?」
「ああ。お前は俺が今まで出会ったどの女達とも違った。人を見た目や表面的な部分で捉えたりせず、取り繕ったり偽善的な事を言ったりやったりもしない。嫌な事は嫌と言うが、その前に何故嫌なのか、どうすればそれを良い方向へ向けられるかを真剣に考え前へ進んでいる……それはきっと無意識にやっているのだろうが、俺にとっては衝撃的で、羨ましかった……」
「私はそんなすごい人間じゃありません」
「分かってる。お前は全てにおいて普通だし、特別な何かを持っている訳ではない。だけどお前のようであれたらいいとほんの少しだが思ったのは事実だ……俺は現実から目を背け、ただ女だというだけで母親を重ねて憎む事でしか前へ進めなかったからな――」
「―――それは……違うと思います」
「何?」
私の言葉に、鬼頭先生はゆっくりと私の方へ視線を向ける。
「私だって逃げ出したくなりますし、嫌だけどうまく断れなくて落ち込む事もあります。確かに嫌だと思った時はどうして嫌なのか考えてるかもしれないけど、私と先生とは状況が違うじゃないですか……その、どんな酷い事をしてきたのか私には分かりませんけど、子どもの頃に頼って甘えたい母親に裏切られ続けたら誰だって辛いはずです! だからその、上手く言えませんけど、先生が冷めた言い方をするのとか私は慣れましたし、からかってくるのも、無いなら無いで寂しいっていうか―――あ〜! だから、先生はお母さんが憎いんじゃなくて、愛情が足りてないんですよ!」
握りこぶしを作って力を込めて言うと、鬼頭先生は呆れたように眼鏡の位置を戻した。
「――まったく、お前には本当に驚かされるな……いや、呆れると言った方がいいか」
「むっ、またそんなひねくれた事を言う!」
「まあいい。俺の性格の悪さはお前が言うには愛情不足という事なんだな?」
「そうです!」
「ならば愛情を補えば変わると言うのか?」
作品名:私のやんごとなき王子様 鬼頭編 作家名:有馬音文