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私のやんごとなき王子様 鬼頭編

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「おい」
「っ!?」

 突然背後から呼ばれて私はソファーから飛び降りた。

「きっ、鬼頭先生っ!?」
 まさか今まさに考えていた意中の人物が現れるとは思っていなかった私は、かなり動揺している。
 裏返った声で辺りを見回した。

「なんだ? 動きがおかしいぞ?」
「えっ? いや、そうですか?」

 水原さんの姿はない。きっと下で別れたんだろう。

「ほら、これ」

 そう言って先生が差し出したのは私のノートだった。

「あっ、ありがとうございます……」

 受け取ったノートをじっと見たまま頭を下げる。

「医務室に忘れたままだったのを、この俺様がわざわざお前の部屋まで届けてやろうとしていたんだ。ありがたく思えよ」

 これ以上気付かれてはいけないと、私は平静を装った。

「はは〜。ありがたく受け取らせて頂きます」

 恭しくノートを両手で持ち上げて再度頭を下げた。何か言われるかと思ってそのままの姿勢で待ってたけど、何も言われないからそっと顔を上げる。
 眼鏡の奥の切れ長の目がじっと私を見ていて、心臓が高鳴る。
 あれ、やっぱりおかしかったかな?

「小日向……お前――」
「はい?」

 ドキドキしている事を悟られないよう、いつもと変わらない調子で返事をすると、先生はふと私から目を逸らした。

「――いや、なんでもない。この礼はいつか必ずしてもらうからな」
「……はあい。でも高校生の小遣いで出来る範囲でお願いしますね。それじゃあおやすみなさい!」

 これ以上先生の顔を見ていると変な事口走りそうだった私は、おどけてそう言い残すとダッシュでその場を離れた。

 いつも憎まれ口ばっかり叩く鬼頭先生。でも本当は寂しがり屋だってやっと気付いた。そんな先生が私に憎まれ口を叩く事でちょっとでも寂しさを紛らせられるんならそれもいっか、なんて思ってしまう。これって惚れた弱みってやつかな?

 水原さんは私なんかより大人っぽくて素敵だけど、鬼頭先生の事を好きだって気持ちは私だって同じだ。
 胸に抱いたノートにぎゅっと力を入れると、私は心の中で叫んだ。

 私、小日向美羽は、ちょっとひねくれてる鬼頭静が好きだ!!