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私のやんごとなき王子様 鬼頭編

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「切るぞ!」

 まずはキャベツかな―――

「わあああ!!!!」

 私が隣りに視線を動かした瞬間だった、鬼頭先生がありえない構えで人参を切ろうとしていたのだ。
 あまりの衝撃に人目もはばからず大声を出しちゃった。

「うるさい。静かに出来ないのか?」
「なな何冷静な事言ってるんですかっ?! 正気ですか、その切り方っ!!」
「あ? 何を言っている、切ればいいんだろう?」
「物には限度と順序というものがあります!」

 面倒臭そうに顔をしかめる鬼頭先生から人参を奪うと、私は皮をむいて輪切りをしてみせた。

「いいですか、まず皮をむいて……このピーラーを使うと楽ですよ。で、手はこうやって添えるんです。あんな指伸ばしてたら包丁で切っちゃうでしょう?」
「……俺に指図するな」
「指図じゃないですっ! 先生の綺麗な指が切れたらどうするんですか!」
「―――気持ち悪い事を言うな」
「っ!?」

 わあ〜もう、何言ってるのよ私! 綺麗な指だなんて気持ち悪い! 鬼頭先生も引いてるよ、いや、私自身めっちゃ引いてる!

 とーーっても冷めた目で私を一瞥すると、鬼頭先生はボウルに入れられた人参を無言で手に取って切り出した。
 うん、まだ危なっかしいけど、さっきよりはましか。

「お前が料理をするとは意外だったな。不器用で全然出来ないと思っていた」

 ボソリと言った先生の言葉を、私は聞き逃さなかった。

「失礼ですね。これでもそれなりに作れるんですよ」
「なんだ、聞こえてたのか。そんなに自分が人からどう思われてるのか気になるのか? まったく、本当にガキだな、お前は」

 窓から外に出て海を見に行く人に言われたくありません。それに、本当は突っ込んで欲しかったくせに。
 先生の性格がどんどん分かって来た私は、普通なら文句の一つも言いそうな言葉も平気で返せるようになって来た。成長したなあ。

「……まあ、今お前が何を考えていたかは敢えて聞かないが、自分がガキだって事はちゃんと自覚してろよ?」

 わ、やっぱりムカつく。どっちがガキよ! ……でもまあ、何だかんだ言いながらちゃんと材料切ってるし、当初は全部私に押し付けると思ってたから、その点は憎まれ口叩かれても良しとしてあげよう。