私のやんごとなき王子様 鬼頭編
結局女子生徒の状態が思ったより悪かった為、船で本土の病院へ連れて行くことになった。
鬼頭先生はここを空ける訳にはいかないから、他の先生が付き添うらしい。船にも船医がいるから行き来は問題ないという事だった。
取りあえず栄養失調と脱水症状を起こしかけてるだけで命に別状はないというので安心した。
本当に医務室の仕事も大変なんだな。
*****
昼過ぎになり、私達生徒指導担当は調理室へと向かっていた。
今日は私達が食事当番なのだ。とはいってもメイン料理を作るのはあくまでも宿舎のシェフの方々。私達は教育の一環として、担当班ごとに日替わりで1品を作るというのが決まりなのだ。
1品とはいっても、全校生徒プラス先生の合計200人分の料理だから作る量がさすがに多い。
私達が作るのは……えと、なんだろう? そう言えば何も聞いてないや。
調理室に揃った先生方と私達生徒は、一番前で大きな段ボールを抱える真壁先生の様子を見守った。先生はその段ボールの中から黒い物体を取り出し、こう言った。
「今日は浜辺でバーベキューを晩ご飯にしようと思います!」
「ええっ!?」
驚きの声が一斉に上がる。先生が持っていた黒い物体は木炭だったのだ。
「倉庫にバーベキュー用のコンロがあるんで、それを浜に運ぶ班と材料を切る班と火をおこす班に分けます。後片付けは生徒達にさせるので、よろしくお願いします!」
なるほど、極力簡単で美味しく、尚かつ楽しいという究極の選択って訳だ。
私は真壁先生の愉快な思考力に納得した。
他の人達も全員納得したらしく、さすが先生達の集まり。あっという間に班分けされ、仕事に取りかかった。
「よし、行くぞ。小日向」
「あ、はい」
私は鬼頭先生と二人で材料班になっていた。いつどうやって決まったのか分からないけど、先生と一緒っていうのがすごく心配……。
だって鬼頭先生包丁が似合わないんだもん。きっと自炊なんてしないだろうから、全部押し付けられそうな気がする。
目の前の野菜達を前に、私は気合いを入れた。
作品名:私のやんごとなき王子様 鬼頭編 作家名:有馬音文