死に損いの咲かせた花は
突然大声で笑い出した乱丸に、力丸は訳が分からないまま兄を見下ろす。一体何事だというのか。
しかし兄は立ち上がり、微笑むと、訳が分からないままの力丸の頭を撫でた。そしてその動作のまま、腰の刀を抜く。
「……お前の言う通りだな。私は色々と頭で考えすぎる。その上、堪え性もないらしい」
「そう……なんですか?」
「力丸。大殿の元へ行くぞ」
真っ直ぐに前を見た乱丸の顔を見上げ、力丸は先ほど撫でられた頭の感触を思い出した。こんな時なのになんだか嬉しくて、照れくさくて、顔が熱くなる。
「お前のおかげだよ」
乱丸の引き締まった表情の中に、微かに笑みが浮かんでいることに気付く。
「……はいっ!」
なんだか分からないが兄の役に立ったらしい。
生まれて初めてそれを自覚して、そのくすぐったさに力丸は笑った。
作品名:死に損いの咲かせた花は 作家名:葵悠希