私のやんごとなき王子様 真壁編
「ここからの眺めはちょっと違うんだな」
「そうですね……最後の演劇祭、終わってしまいました」
感慨深くそう呟くと、先生はほんの少し笑った。
「本当によく頑張ったな。あいつらすげーよ」
あいつら――きっと風名君や亜里沙様達のことだ。
「こんなでっかい舞台で、あんな堂々とした演技をしてさ……すげーよな」
「はい……」
でも先生。私はあなたが一番すごいと思います。
「それから、お前もな」
「私……ですか?」
「ああ」
先生は私の頭に手を置くと、いつもより優しく撫でた。
「……この間、水原が言った事は忘れろ」
「え?」
「あいつが好きだって言ってくれるのは嬉しいが、俺はその気持ちに答えるつもりはないし……」
ツキンと心臓が痛んだ。
どうして今そんな事を言うんだろう。
「信じらんねえよな。まさか、俺がお前の事を好きになっちまうなんて―――」
「――――ええっ!?」
私は驚きで先生の手が頭に乗った状態のまま顔を上げた。
大きな先生の手が邪魔でその表情を伺う事は出来なくて、頑張って振りほどこうとしたけど、先生の手は押しても引いてもびくともしなかった。
「はあ……」
大きなため息の後、先生は私の頭の上にあった手を頭の後ろへずらすと、勢い良く自分の方へと引き寄せた。
「わっぷ!」
先生の胸に鼻をぶつけて、痛みで顔をしかめる。
ちょっと待って、これって……?
「少し大人しくしてろ―――あ〜。いいか? 俺は教師でお前は生徒だ」
以前聞いた時と全く同じ台詞を言う先生に、私はまた胸が痛んだ。
そんな事言われなくても分かってる。これはどうしようもない事実。
「だから絶対にこんな感情を持っちゃいけないって分かってた……でもな、お前が頑張ってる姿見てて、改めてすげーなって思ったんだ。そんなお前を無意識のうちに探してる自分がいてさ……お前は俺よりうんと年下なのに、俺を元気づけてくれて―――だから、なんて言うか、その……惚れたんだよ……」
「先生―――」
私の方が先生にいつも元気づけてもらってるのに、私が先生を元気づけた? そんな事分からないけど……でも、すごく嬉しい。
作品名:私のやんごとなき王子様 真壁編 作家名:有馬音文