私のやんごとなき王子様 真壁編
「どうだ? 宿舎からそんなに離れてないし、見やすいし穴場だろ?」
そう言って笑う真壁先生に笑顔をむけて頷く。腰を下ろしたのは海岸へ続くなだらかな緑の斜面だった。ふと辺りを見ると離れた海岸にはたくさんの人影があって、花火が上がるのを今か今かと待ち構えていた。ここへは海岸に降りずに回り道をしなければいけないから、気付いている人が少ないようだ。
「本当に穴場ですね」
「まあな。こういう変な場所探すのはガキの頃から得意なんだよ」
先生の言葉に妙に納得していると、近くの海面からシュルシュルと第一発目の花火が打ち上がった。
ドーーーン!!
大音響を響かせ、心臓の内側から体全体を振るわせるような振動が走り抜けた。
夜空に弾けた大きな色鮮やかな花火に、一斉に喝采が起こる。
「わあ……綺麗」
次々と重力に逆らって空へと投げ出されて行く花火の雨に、私は時間を忘れて魅入っていた。
「すげー迫力だな!」
「はい!」
先生と一緒に見ているから、花火がいつもより力強く感じる。
誰かを好きになると、小さな事の一つ一つが目新しく映る。卒業までのあと約7カ月、少しでも多くの時間を先生と共有したい。
「真壁先生」
私は呼びかけられたその声に、思わずドキリとして顔を弾かれた。振り向くとそこには水原さんが立っていて、私の事を睨みつけていた。
あ……。
もしかして、先生の事を探していたんだろうか。少し息が上がった様子で、呼吸を整えて今度は真壁先生を見た。
「どうした、水原?」
「私も一緒に花火見てもいいですか?」
思わず真壁先生の顔を見てしまった。
先生は一瞬複雑な顔をして、それでも頷いた。
「ああ、いいよ」
その答えに傷ついたのは私だった。まさかOKするなんて。
先生は先生であって、生徒の誰か一人を特別扱いすることは許されない。分かってる。
分かってるけど―――
作品名:私のやんごとなき王子様 真壁編 作家名:有馬音文