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私のやんごとなき王子様 真壁編

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「ありがとうございます!」

 笑顔でこちらへやって来た水原さんは、私と真壁先生の間に入り込んで来た。

「ここ、すごくいい場所ですね」
「ああ、そうだな」

 二人の会話を聞きながら、私は泣きそうになるのを必死で堪えていた。
 この間水原さんが告白していたのを、私は聞いて知っている。水原さんは好きな人と少しでも一緒にいたいんだ。その気持ちが痛い程分かって、辛かった。

『俺は教師でお前は生徒だ』

 あの日から何度となく頭の中で再生されたその言葉は、水原さんだけでなく私そのものに向けられているのと同然なんだ。
 昨日見せてくれた先生の過去は、きっと水原さんは知らない。私しか知らない真壁先生は確かにいるけど、ただそれだけ。

 次々に打ち上がる花火は、先ほどと違ってくすんで見えた。

 ドーーーン!!

 大きな1尺玉が空に花を咲かせると、

「私、絶対に先生の事諦めませんから」

 響く音の合間にそう水原さんが言うのが微かに聞こえた。
 先生に向けて言っただろうその決意は、私の弱さを否応無しに直撃した。

「あっ!」
「どうした、小日向?」

 気付いたら私は立ち上がっていた。

「すみません、仕事のやり残しがあったのを思い出しました。私、ちょっと生徒指導室に行ってきます!」
「あ、おいっ!」

 先生の呼び止めを振り切り、私は先生と一緒に歩いて来た道を駆け抜けた。
 花火が終わる頃、先生は水原さんと二人でこの道を帰って来るんだ。
 どうして私は先生の事なんか好きになったんだろう。どうして私は二人だけにして戻って来てしまったのだろう。

 訳の分からない感情に、涙が溢れて止まらなかった。