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私のやんごとなき王子様 真壁編

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 夕食後、私と真壁先生は二人で浜辺へと降りて来た。
 ゆっくりと打ち寄せては返して行く波を見ながら、宿舎から少し離れた所に腰を下ろす。

「夜の海ってのも、なかなかいいもんだな」

 そう言って両手を後ろに着いて星空を仰いだ先生に、私は同意する。

「はい。とっても静かですね」
「なんかさ、俺ってやっぱり教師向いてないのかなあ……」
「えっ? どうしたんですか、急に?」

 驚いて先生を見ると、そのままパタリと砂の上に大の字になってしまった。

「先生、砂が付いちゃいますよ?」
「風呂入るから別にいーよ……なあ、小日向」

 ずっと空を見上げたままそう言う先生は、夕方見かけた時と同じ辛そうな表情をしている。

「はい」
「お前はどう思う? 正直に答えてくれ」
「どうって、真壁先生はとっても良い先生ですよ。生徒の事をいつも考えてくれて、親身に相談に乗ってくれるし。皆の人気者じゃないですか」
「―――違う……」
「え?」

 先生はぼそりと私の言葉を否定すると、ぎゅっと唇を噛み締めた。
 違う? 何が違うっていうの?
 訳が分からないでいると、先生は体を起こして私の顔を真っ直ぐに見据えた。その辛そうな眼差しにドキリとする。

「俺は駄目な人間だ……何をやっても中途半端で、親や兄貴達の期待にも答えてやれない……その上こうやってお前に愚痴なんて、最低だ……それなのに―――」
「そっ、そんなことっ!」
「最低なんだよ!」
「――先生……」

 その大きな両手で顔を覆うと、先生は苦しそうに体を震わせた。
 きっとそれなのに、という言葉の後には、俺を好きだと言ってくれる子がいるなんて。って続くはずだったのだと思う。知らなかったな。先生がこんなに自分を嫌っていたなんて……。

「……悪い、小日向。怒鳴っちまって」

 しばらくして顔を上げた先生がぽつりと言った。
 私は無言で首を振る。

 平気です。だって先生がどんな事を考えているのか、何をそんなに苦しんでいるのか知りたいから。水原さんの事だけじゃなくて、もっとたくさんの何かを抱えているんだって、先生はやっぱり大人なんだって分かって嬉しい。