私のやんごとなき王子様 真壁編
「お前、本気で言ってるのか?」
真壁先生のその言葉に私は思わず動きを止め、壁のこちら側へ急いで隠れた。
先生の立つ向こうにはもう一人誰かいるようだ。
「……本気です。本気で私は真壁先生の事が好きなんです!」
えっ……?
今、私が聞き間違えていなければ、真壁先生の事が好きだと聞こえた。
――嘘。もしかしたら私はとんでもない所にやって来たんじゃないの?
ドキドキと早くなる心臓。
そっと壁から先生達の様子を見た。
!?
なんと、先生の前のソファーに座っていたのは水原さんだった。
真剣な顔で真壁先生を見上げている。
「水原、俺は教師でお前は生徒だ。簡単に言って良い言葉じゃないのはお前だって分かってるだろ?」
「今すぐ返事を下さいとは言いません。先生の立場は分かってます。ご迷惑だって事も……でも、好きって気持ちは本当なんです!」
だ、駄目だ。これ以上ここにいちゃいけない。
私はゆっくりとその場を離れ、階段を急いで降りた。
一気に一階まで降りると、生徒指導の部屋の前で足を止める。
先生の言葉が頭の中で何度もこだまする。
『俺は教師でお前は生徒だ』
分かってる。
そんな事水原さんだって私だって十分すぎるほど分かってる!
「……どうしよう、なんでこんなに苦しいの?」
ギリギリと痛む胸を押さえ、私は壁にもたれかかった。
「おう、小日向。ご苦労様」
「あ、はいっ」
急に開いたドアから出て来た先生に、私は弾かれたように体を戻して頭を下げる。
「あの、残っている生徒はいなかったんですけど、真壁先生にはお会いしなかったので伝えてません」
「そうか。分かった。じゃあお前は部屋に戻れ。また明日もよろしくな」
「はい。失礼します!」
大げさに頭を下げ、私はぐっと足元を睨んだまま廊下を歩いた。
歩きながら確信していた。
そう、私は水原さんと同じ。真壁先生の事が好きなのだ―――
望みのない恋をしてしまったのだ、と。
作品名:私のやんごとなき王子様 真壁編 作家名:有馬音文