私のやんごとなき王子様 真壁編
朝からやっぱり忙しくて、気付けば時計は夜の9時を回っていた。作業をしている部署は中断しなくてはいけない時間だ。
室内をぐるりと見ると、先生方の姿はまばらだった。私もやっと自分の仕事が終わりそうだったのでほっと息を吐くと、ドアから入って来た先生に声をかけられた。
「小日向。お前もうすぐ終わるか?」
「あ、はい。終わります」
「そうか。ならその仕事が終わったら作業部屋の確認に行ってくれ。ちょっと手が空きそうな先生がいなくてな」
「分かりました」
「それで真壁先生がいたら後で理事長の部屋に来るように伝えておいてくれないか? ミーティングが10時からあるらしいから」
「10時から理事長のお部屋でミーティングですね。分かりました」
作業部屋で作業をしている生徒がいたら部屋に戻るように注意する仕事と真壁先生を見つけたら伝言する仕事を与えられ、私は急ぎ机の仕事を片付けて席を立った。
一番遠くの部屋から始めて、順調に作業部屋を廻っていた時だった。廊下の窓から向こう側の廊下が見えて、そこに見覚えのある大きな人物の後ろ姿がチラリと映った。
あ、真壁先生発見。
私は残りの部屋の点検を進めながら足早に真壁先生のいる廊下へと向かった。
壁から顔を覗かせると、案の定、真壁先生がソファーの横に立っているのを見つけた。
「せ……」
私が声をかけようと足を一歩踏み出した時だった。
作品名:私のやんごとなき王子様 真壁編 作家名:有馬音文