私のやんごとなき王子様 真壁編
5日目
理事長所有の島に到着した私達は、慌ただしい初日をなんとか終了した。
そして翌日ーーー
起床したばかりの私には、すぐさま仕事が待ってる。
昨日はなんだかんだで結構遅くまで雑用をしていて、今日も早くから生徒指導担当の先生方とミーティング。
今日は芸能関係の取材陣が午後に来ることになっていて、問題が起きないように一人一人の入館パス(という名の名札)を作らないといけないみたい。
そしてその作業を私と真壁先生が任されて、朝食もそこそこに1階のエントランスのテーブルでラミネートを切っていた。
「去年もこんなに多かったですっけ?」
切っても切っても終わらない人の名前の山に、私はとうとうぼやき始めた。
だって眠気と空腹で頭がぼうっとし始めたんだもん。まだ手を動かしてるからいいけど、これで作業をやめたら3秒で寝ちゃいそう。
「今年は例年の倍以上だな」
向かいのソファで窮屈そうにハサミを操る真壁先生が答えた。
やっぱりそうよね。だって去年も一昨年も取材はあってたけど、ざっと見ても10人くらいだったもん。
ふと風名君と亜里沙様の顔を思い浮かべた。
日本で今一番売れっ子のアイドル2人が、仕事を開けてまで出演する演劇祭なのだ。嫌でも話題になる。
「しっかしあいつらも大変だよな。まだまだ遊びたい盛りだろうに、こうやって人の注目浴びて話題にされて……」
先生も同じ事を考えていたみたいで、そう言って出来上がった名札を恨めしそうに見つめた。
「そうですね。自分が選んだ仕事だとしても、普通に生活するなんて出来ませんもんね」
「風名も桜も親が芸能人だし、その親が子どもを芸能の道に入れたいってんだから仕方ないんだろうけどなーーーけどさ、あいつらには俺と違って才能も資格もあるからな……」
「え?」
ぼそりと言った先生の一言に、私は何故か心を揺らがされた。その声音がなんだかすごく寂しそうだったから。
ふと向かいの先生を見つめると、少し伏せた目元がやっぱり物悲しかった。
作品名:私のやんごとなき王子様 真壁編 作家名:有馬音文