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彼女のトモダチ

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(どうして……? 私、おかしい。昨日の今日で、どうして今まで友達だった人を、途端に意識しているの? しかも親友の彼氏だよ。おかしいよ、私……)
「おはよう、鈴木」
 その時、美波はやって来た部活の先輩に声をかけられた。
「あ、おはようございます」
 ハッと我に返って、美波は振り向いて挨拶をする。
「どうしたの? 珍しいね。鈴木が息切らしてるなんて。もうすぐ大会なんだから、なまけてちゃ駄目よ」
「はい。大丈夫です……」
 美波は頷きながら微笑んだ。
(大丈夫? 私、ちゃんと笑えてる……?)
 美波は波打つ心を抑えながら、部室へと入っていった。

「おはよう、美波」
 その日、朝練を終えた美波が教室に入ると、すぐに千笑が声をかけてきた。いつもの光景だ。
 寝坊の多い千笑は、未だに眠そうな顔をしており、朝練ですっかり血色の良い美波とは対照的である。
「おはよう、千笑……」
「ねえ、宿題見せて?」
「あはは。しょうがないなあ……」
 朝の少ない時間、美波は呆れたように千笑にノートを差し出す。これもまた、いつもの光景だった。
「うわ、セーフ!」
 その時、慌てた様子で教室に入って来たのは、田村だ。ギリギリまで朝練をやっているので、いつもチャイムギリギリの教室入りとなる。
「おはよう」
 田村はそう言って、千笑の隣に座った。二人が付き合い始めたきっかけは、隣の席になったことが原因である。なにより田村は、誰にでも気さくに話しかけるので、入学間もなくして二人と仲良くなったことも事実だ。
 もちろん、千笑の後ろの席である美波とも、田村はよく話すクラスメイトだ。
「おはよう、智樹。今日も朝練、お疲れさま」
 千笑はそう言いながらも、宿題を写すことを止めない。
「宿題? 鈴木、俺も写していい?」
「う、うん……」
 すかさず参戦する田村に苦笑しながら、美波は二人の後姿を見つめていた。
 思い起こせば、二人との楽しい思い出はたくさんある。美波と田村は、入学当時に席が隣同士だった。忘れた教科書を見せてあげたり、逆に借りたこともあった。練習でぐったりして眠っている田村の顔を見たこともある。そのすべてが輝き出したように、美波の中で田村への意識が、確実に変わっていっていた。
「終わった! ありがとう、美波」
 しばらくして、千笑が振り向いて言った。
「あ、うん……」
「あ、俺まだ。もうちょっと待って」
 そんな田村を尻目に、千笑は完全に美波の方を向いて話し始めた。
「美波、もうすぐ大会でしょ。いつだっけ?」
「今度の日曜日」
「ええ!」
 美波と千笑の会話に割って入るように、田村が振り向いて叫んだ。
「な、何?」
「なんだよ。俺、その日も試合じゃん!」
「そっか。でもその日は、美波優先だからね。時間がずれればいいんだけど」
 千笑が言う。
「うん。それはいいけど、俺も鈴木の応援行きたかったな……陸上の大会って行ったことないし、昨日のお礼にさ」
「まあ、仕方ないね……智樹は甲子園目指して、突き進まなきゃ」
「うん……ごめんな、鈴木」
 そう言う田村は、本当にすまなそうにしていた。そんな田村に、美波は優しく首を振る。
「ううん。お互い、部活優先だよ。私だって、昨日はたまたま部活と時間がずれてたから行けただけのことだし……本当に気にしないで」
 美波が言う。残念なような、ホッとしたような、なんとも不思議な気持ちだった。

作品名:彼女のトモダチ 作家名:あいる.華音