彼女のトモダチ
「……鈴木も、大会あるんだろ?」
「うん、もうすぐ。去年は失態見せちゃったから、今年は本当に頑張らないと……」
「失態じゃないよ。転んだだけじゃん」
「駄目だよ。陸上選手で転んだら」
「まあ、野球も一緒だけどね……」
田村はそう言うと、横目で美波を見つめた。
「また応援しに行くからさ、時間あったら、こっちの決勝戦も見に来てくれよな」
微笑みながら、田村がそう言ったので、美波は何度も頷く。
「うん。あ、いつ?」
「今度の日曜」
「あ……」
野球の地区大会決勝戦の日取りを聞いて、途端に美波が俯いた。
「都合悪い?」
田村が尋ねる。
「うん……っていうか、私もその日、大会なんだ。今年はお互い見れないね……」
「そっか。そっちも一日がかりだもんな。俺は午後一番くらいだと思うけど……」
「うん……まあ、仕方がないよね」
「だな」
二人は苦笑すると、夕日が落ちていく街を歩き続けた。
偶然の出会いにもかかわらず、今日も田村は美波を家まで送り届けてくれた。小さな優しさが、美波にとってはとてつもなく嬉しい。
「ありがとう」
「いや……」
その日の田村はいつもと違い、何かを考えているようだった。いつもなら、礼を言い終わる前に背を向けている時もある。
「……田村? どうかしたの?」
「あ、ぼうっとしてた。じゃあな……」
田村はそう言って苦笑すると、そのまま去っていった。