双子の王子
ソルはルナの楽しそうな笑みを不思議そうに見て言った。
「ルナには、何か望みはないのか?」
「ありません。…と、聖職者なら答えるべきなのでしょうけど、ひとつだけ、あります」
「何だ?俺に出来ることなら何でもするぞ」
「勿体無いお言葉をありがとうございます。しかし、殿下でも難しいと思いますよ。だって私の望みは、両親に会うこと。…ただそれだけですから」
ソルは驚き、そして俯いた。
ルナには見えないその表情は、苦しみと恨みの混ざったような表情だった。
けれど、もう一度顔を上げた時にはそれを隠し、ただ意外そうに言った。
「それだけで、いいのか?」
「ええ、それで十分です。…いえ、たとえ会えなくても、お二人がお元気なら、それで」
「お前を捨てたような奴らだぞ!?」
「それでも…です。もしかしたら何か事情があったのかもしれませんから」
ソルは足を止め、ぎゅっとルナを抱き締めた。
「でっ…殿下!?」
「…から」
「…え?」
「俺が…いる…から……」
「殿下…」
どうして、とはルナは言わなかった。
その言葉の意味が分かったわけではない。
それでもソルが、自分を想ってくれていることがルナには痛いほどよく分かったから、尋ねなかったのだ。
「ありがとう…ございます……」
「ルナ…ソルと、呼べ」
「しかし…」
「二人きりの時だけで…いいから……」
「…ソル」
「ルナ…ルナ……」
俺の兄弟…とソルは心の中で呼んだ。
二人はしばらくの間抱き合い、落ち着いてから再び神殿を目指した。
真っ白い石造りの神殿。
その入口の大きな扉の前で、ルギ達が待っていた。
ルギは明らかにほっとした顔をして、ソルに駆け寄った。
「殿下、御無事でしたか!」
「ああ、ルナのおかげだ」
「ルナ…?」
ルギの表情が訝しむように歪み、ソルの後ろに立っているルナを見るなり、戸惑いに揺れた。
それをぐっと押し隠したルギは努めて笑顔を作り、
「さぁ殿下、帰りましょう。晩餐の時間に遅れますよ」
「少し待ってくれ。ここの僧正に聞きたいことがある」
「なりません」
いつになくきっぱりと言ったルギに、ソルは驚きの目を向けた。
「…何故だ」
「王より堅く禁じられております」
「…さては、お前も…!!」
ソルは憎々しげに呟き、ルギを突き飛ばした。
驚くルナの手を掴み、神殿へと駆け出す。
「殿下!」