双子の王子
「いや。魔法使いは一人友人にいるが、実験や研究が行なわれる魔法使いの塔は魔法使い以外立ち入り禁止だからな。こんなに間近で見たのは初めてだ」
「そうなんですか…」
意外そうに呟いたルナにソルは、
「それより、どうしてローブを脱がないんだ?濡れたままだと風邪を引くぞ?」
ソルは既に下着姿で、脱いだ服を絞っていた。
ルナは困ったように微笑し、
「殿下に見苦しいものをお見せするわけにはまいりませんから」
「何を言うんだ。本当に風邪を引くぞ。もし君が風邪を引いたら、俺は神殿まで見舞いに行くからな」
「それは…」
怒ったように言うソルに気圧されて、ルナは視線を落とした。
「ルナ」
「…分かりました」
ルナは少し顔を蒼くして、腰の紐を解き、ローブを脱いだ。
ルナの白い肌とは対照的な、酷い火傷痕が露になり、ソルは驚きを隠そうともせずに尋ねた。
「ルナ、それは……」
「気持ち悪いでしょう?」
哀しげに言って、ルナはそれをローブで隠した。
「そんなことはない。だけど、一体どうして……」
「拾われた時から…こうだったんです……。胸に酷い火傷を負っていて、生きているのが不思議なくらいだったと…」
「酷いことを……」
そう呟いたソルは、隠そうとするルナの手をやんわりと押さえて、そのただれた肌を見た。
ルナは恥ずかしそうに身を捩り、頬を紅潮させた。
「でっ…殿下っ……!」
「他の部分はこんなに綺麗なのに…」
ソルの手がそこに触れ、火傷を辿っていく。
「あっ…殿下ッ…止めて…っ!」
「…何故、胸を焼く必要があったんだ……?」
思考の海に沈んでいるらしいソルにはルナの訴えは届かない。
「ソル殿下っ、お止めくださいっ…!」
「…まさかな。――あ、っと…すまない、ルナ」
ソルは手を離し、ルナの手からローブを奪い取った。
「あっ、殿下!?」
「詫びだ。絞ってくる」
そう洞窟の入口へ近づいたソルは小さく、ルナに気付かれないようにため息をついた。
雨はますます激しく降り、止むことなどないかのようであった。
ソルは手を伸ばし、水を手に受けると、顔を洗った。
自分の中へ侵入ってくる疑惑を、洗い流したいかのように、何度も繰り返し洗った。
一方ルナは、胸に手を当て、激しい動機を抑えようとしていた。
どうして、という疑問が、二人の胸を満たしていた。