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織葉(おりは)
織葉(おりは)
novelistID. 1532
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双子の王子

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 それが人だと気付いたソルは、力いっぱい手綱を引き、
「止めろ! 止まれ!!」
 と叫んだが、馬は聞かない。
 もうだめだ、と目を瞑ってしまいそうになるのを堪えながら、ソルは前方の人影に向かって叫んだ。
「頼む、よけてくれ!!」
 白い影はすっと立ち上がると両手を広げた。
 唇には緩やかな笑みさえ浮べて。
「大丈夫。怖くありませんよ。止まって…」
 その声も穏やかで、静かだった。
 馬は、先ほどまでの暴走を忘れたかのように止まり、白い影はよしよしと馬を撫でた。
 その人こそ、ルナだった。
 ソルが馬から下りても、ルナは馬を撫で続けていた。
 やはり優しげな笑みを浮べて、
「耳に虫が入るかどうかしたのでしょう。もう、大丈夫ですよ」
「ああ、済まない。ありがとう。君は…」
 ソルとルナの目が合い、二人は見つめあったまま動けなくなった。
 懐かしさや愛しさといったものが、今まで感じた何物以上に強く感じられる。
「君…は……?」
 ソルは掠れた声で尋ねた。
 二人とも、視線を外せないままだった。
「私は…この近くの神殿で育った孤児で……名前は…ルナと申します……。貴方は…?」
「俺はソルだ。ソル・スウォード・グランテ」
「では、王子殿下でしたか。失礼をいたしました」
 そう言いながらも、目を離せない。
 目を離せないので、ルナは礼をとることも出来ず、気まずい空気が流れた。
 そこへ突然、天をひっくり返したかのような大雨が降り出した。
 辺りの木々さえ見えなくなりそうな土砂降りの中、ルナは慌ててソルの手を掴んだ。
「殿下、こちらへ!」
 ルナは馬の手綱とソルの手を引いて木立の間を走り、小さな洞窟へ案内した。
 そこはそう離れてはいなかったのだが、二人はすっかりびしょ濡れになっていた。
「凄いな…」
 重たくなったマントを外しながらソルが言うと、ルナも頷き、
「夕立でしょうから、すぐに止むと思いますよ。殿下、こちらへどうぞ」
「何だ?」
 ルナは洞窟の奥から取ってきた木の枝を地面に積み、手をかざした。
 たったそれだけのことで、枝に火が点いた。
「魔法か!」
 驚いたように言うソルにルナは笑って、
「まだまだ未熟ですが。…殿下なら、この程度の魔法など、珍しくはないでしょう?」
作品名:双子の王子 作家名:織葉(おりは)