双子の王子
それが人だと気付いたソルは、力いっぱい手綱を引き、
「止めろ! 止まれ!!」
と叫んだが、馬は聞かない。
もうだめだ、と目を瞑ってしまいそうになるのを堪えながら、ソルは前方の人影に向かって叫んだ。
「頼む、よけてくれ!!」
白い影はすっと立ち上がると両手を広げた。
唇には緩やかな笑みさえ浮べて。
「大丈夫。怖くありませんよ。止まって…」
その声も穏やかで、静かだった。
馬は、先ほどまでの暴走を忘れたかのように止まり、白い影はよしよしと馬を撫でた。
その人こそ、ルナだった。
ソルが馬から下りても、ルナは馬を撫で続けていた。
やはり優しげな笑みを浮べて、
「耳に虫が入るかどうかしたのでしょう。もう、大丈夫ですよ」
「ああ、済まない。ありがとう。君は…」
ソルとルナの目が合い、二人は見つめあったまま動けなくなった。
懐かしさや愛しさといったものが、今まで感じた何物以上に強く感じられる。
「君…は……?」
ソルは掠れた声で尋ねた。
二人とも、視線を外せないままだった。
「私は…この近くの神殿で育った孤児で……名前は…ルナと申します……。貴方は…?」
「俺はソルだ。ソル・スウォード・グランテ」
「では、王子殿下でしたか。失礼をいたしました」
そう言いながらも、目を離せない。
目を離せないので、ルナは礼をとることも出来ず、気まずい空気が流れた。
そこへ突然、天をひっくり返したかのような大雨が降り出した。
辺りの木々さえ見えなくなりそうな土砂降りの中、ルナは慌ててソルの手を掴んだ。
「殿下、こちらへ!」
ルナは馬の手綱とソルの手を引いて木立の間を走り、小さな洞窟へ案内した。
そこはそう離れてはいなかったのだが、二人はすっかりびしょ濡れになっていた。
「凄いな…」
重たくなったマントを外しながらソルが言うと、ルナも頷き、
「夕立でしょうから、すぐに止むと思いますよ。殿下、こちらへどうぞ」
「何だ?」
ルナは洞窟の奥から取ってきた木の枝を地面に積み、手をかざした。
たったそれだけのことで、枝に火が点いた。
「魔法か!」
驚いたように言うソルにルナは笑って、
「まだまだ未熟ですが。…殿下なら、この程度の魔法など、珍しくはないでしょう?」