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織葉(おりは)
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novelistID. 1532
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双子の王子

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「この子を捨てよ。胸の印を焼き消し、神殿へ。永久に、この城へ戻ってくることのないようにせよ――」
 もし、王妃に意識があったなら止めただろう。
 腹の中で温め続け、やっとの思いで産んだ子を、殺すよりも酷い目にあわせようとする夫の正気を疑っただろう。
 だが、王妃は長時間に及んだ出産に疲れ、意識さえ失っていた。
 王は恐ろしげにルナを見、それからソルを見た。
「私と同じ印を持って生まれた王子よ。――私の、たった一人の息子よ」
 そう言って、ソルを抱き上げた。
 ソルは父の手の中で泣き声をあげていた。
 十月十日の長きに渡り共にいた弟との別れを嘆くように。
 あるいは父王を恐れるように。
 産婆は、ルナを兵士に渡した。
「この子を、神殿へ。胸の印を焼き消してから捨ててきなさい」
 心得た、と口には出さずに兵士は頷いた。
 ルナはか細い泣き声をあげていた。
 胸を焼かれ、意識を失い、そのまま神殿へ届けられた。
 生まれてすぐ、引き離された兄弟。
 彼らは決して出会うことなく、一生を過ごすこととなる……はずだった。
 それがどういったわけか出会ってしまったのは、二人が十六歳を迎えた、秋の頃のことだった。
 ソルはその印に相応しく、剣の腕を磨き、体を鍛えていたが、まだ若い体はしなやかで、美しかった。
ルナは神殿で過ごし、色白で物静かな様は、ソルとは全く違った美しさを持っていた。
 その日、ソルは気に入りの者数名を共に、遠駆けに出掛けた。
 空は高く青く、地は秋の気配を感じさせた。
「気持ちのいい天気だ。なあ、ルギ」
 ソルの守役として、長く仕えているルギはにっこりと笑って、
「はい。しかし、山の天気、ことに秋の天気は変わりやすいと申しますから、あまり奥へは行かないことにしておきましょう」
「ああ」
 そう機嫌よく進んでいた。
 馬の機嫌もよく、遠駆けよりもピクニックか何かの方が似合いそうな日だった。
 もうそろそろ引き返そうと、ルギが声を掛けようと思った時、不意にソルの馬が暴走をはじめた。
「うわっ――!」
「殿下!」
 ルギが追うも、馬はソルを乗せたまま、山の奥へと突っ込んでいく。
 ソルが手綱を引き締めても、馬はぐんぐん走り続ける。
 それこそ、こんなに走れたのかとソルが驚くほどの勢いで、何かを目指すかのように。
 やがて、前方に白い影が見えてきた。
作品名:双子の王子 作家名:織葉(おりは)