双子の王子
「この子を捨てよ。胸の印を焼き消し、神殿へ。永久に、この城へ戻ってくることのないようにせよ――」
もし、王妃に意識があったなら止めただろう。
腹の中で温め続け、やっとの思いで産んだ子を、殺すよりも酷い目にあわせようとする夫の正気を疑っただろう。
だが、王妃は長時間に及んだ出産に疲れ、意識さえ失っていた。
王は恐ろしげにルナを見、それからソルを見た。
「私と同じ印を持って生まれた王子よ。――私の、たった一人の息子よ」
そう言って、ソルを抱き上げた。
ソルは父の手の中で泣き声をあげていた。
十月十日の長きに渡り共にいた弟との別れを嘆くように。
あるいは父王を恐れるように。
産婆は、ルナを兵士に渡した。
「この子を、神殿へ。胸の印を焼き消してから捨ててきなさい」
心得た、と口には出さずに兵士は頷いた。
ルナはか細い泣き声をあげていた。
胸を焼かれ、意識を失い、そのまま神殿へ届けられた。
生まれてすぐ、引き離された兄弟。
彼らは決して出会うことなく、一生を過ごすこととなる……はずだった。
それがどういったわけか出会ってしまったのは、二人が十六歳を迎えた、秋の頃のことだった。
ソルはその印に相応しく、剣の腕を磨き、体を鍛えていたが、まだ若い体はしなやかで、美しかった。
ルナは神殿で過ごし、色白で物静かな様は、ソルとは全く違った美しさを持っていた。
その日、ソルは気に入りの者数名を共に、遠駆けに出掛けた。
空は高く青く、地は秋の気配を感じさせた。
「気持ちのいい天気だ。なあ、ルギ」
ソルの守役として、長く仕えているルギはにっこりと笑って、
「はい。しかし、山の天気、ことに秋の天気は変わりやすいと申しますから、あまり奥へは行かないことにしておきましょう」
「ああ」
そう機嫌よく進んでいた。
馬の機嫌もよく、遠駆けよりもピクニックか何かの方が似合いそうな日だった。
もうそろそろ引き返そうと、ルギが声を掛けようと思った時、不意にソルの馬が暴走をはじめた。
「うわっ――!」
「殿下!」
ルギが追うも、馬はソルを乗せたまま、山の奥へと突っ込んでいく。
ソルが手綱を引き締めても、馬はぐんぐん走り続ける。
それこそ、こんなに走れたのかとソルが驚くほどの勢いで、何かを目指すかのように。
やがて、前方に白い影が見えてきた。