双子の王子
それと共に、塔の中も本来あるべきはずの、薄汚さに染まる。
城の遥か上空に浮き上がった時、ルナが言った。
「ソル…兄さん」
「なんだ?」
「本当に、このまま行ってもいいんですか?」
「いいんだ、あんな奴……」
「…母は…王妃様は…? 陛下と同じことを仰ったのですか?」
「…いや、話す機会がなかった」
「ねぇ…ソル兄さん…。もう、いつ戻ってこれるか…いいえ、戻ってくるかどうかも分からないんです。母上に会ってからにしませんか?」
「…ルナは、会いたいのか?」
「……はい」
「母が酷いことを言うかもしれないぞ。それでも…か?」
「それでもです。決して後悔はしません」
決然と言ったルナに、ソルは諦めたように言った。
「母上の寝室は東の端だ。急ぐぞ」
ソルとルナはスーッと夜の闇を滑り、窓に近づいた。
二階のベランダに下り立ったふたりは、そっと中を窺った。
大きな作りつけの化粧台に腰かけた女の姿に、ソルはチッと舌打ちした。
「息子が幽閉されたってのに化粧かよ」
「こんな晩くにそれはないでしょう。よく見てください」
ルナに窘められて、ソルはじっと母親を見た。
王妃レティアは黒髪に黒い目をしたエキゾチックな美女だった。
南方の国から嫁いだ彼女はじっと髪を梳っていたが、その間何度も何度も扉の方へ視線を向けた。
何かを待つように、落ち着かない様子で。
とうとう投げ出すように櫛を置いたレティアは立ち上がり、椅子を蹴った。
「ああもう! なんだって誰も戻ってこないのよ!」
普段大人しい姿しか見せなかった母の豹変振りにソルは思わず目を見開いた。
ルナは小さく笑みを浮べて、
「随分逞しい方ですね」
と言ったが、ソルは答える気力もない。
ルナはそれを訝しみもせず、母の独り言に耳を傾けた。
レティアは檻に入れられた動物か何かのように部屋の中を歩きまわりながら、
「ばあやもアイシャもレナも戻って来やしない。どこで油を売ってるのかしら!……それとも、あの人に捕まっているのかしら……」
心配そうに呟いて足を止めたレティアはぱっと顔を上げ、
「決めたわ! 直接抗議してやりましょう!」
と、その目が見開かれたまま動かなくなった。
じっと見つめている先にいるのはソルとルナである。
レティアは数瞬の後、ボンッと赤くなった。