双子の王子
「ああ、純粋な王子、お綺麗な王子にはお分かりにならないのでしょうね。私達の気持ちなど、少しも。――嫌悪するがいいでしょう。そう、嫌えばいい。けれど貴方も、いつかはこうなるのですよ」
「俺は、お前たちのようにはならない!」
思わず、ソルは叫んだ。
魔を祓うように、邪を祓うように。
「俺は決して、お前たちのように弱いものを苦しめたりするものにはならない!!」
その叫びが、森を震わせた。
鳥が一斉に飛び立ち、獣たちは身を潜めた。
その声はせいぜい森の一部分にしか届かなかっただろう。
けれどその思いや、そこに込められた力は、森どころか国中に響き渡った。
それは、力あるものにしか感じられないものだっただろう。
けれど同時に、力あるものを目覚めさせるには十分過ぎるものだった。
城の高い塔の上で眠る者を起こし、火山に眠るものの目を開かせ、砂漠の砂に眠る都市をも目覚めさせた。
その大きな、けれども人々にそれと悟らせないほど微細な変化は、予定されたものだったのだろうか?
目覚めたものは口々に、声にはならぬ声で呟いた。
「時は来た」と。
そのきっかけとなったはずのソル自身はそれを知らず、ただ黙然と城へ帰った。
これまで素晴らしいと思ってきた壮麗な城さえ、今のソルの目には醜悪に映った。
自分に頭を下げる人々が全て、ルギのような怪物を飼っているように思えた。
それらを振り来るように、ソルは真っ直ぐスウォードのもとへ向かった。
玉座に座した王は、壮年でこれから円熟期を迎えようとするといったところだろうか。
ソルはじっと王を睨み、何の前置きもなしに言った。
「父上、俺に弟がいると言うのは真実ですね?」
「何を突然…」
と王はソルを睨み返した。
剣の王と呼ばれるだけあって、その目には恐ろしいまでの気迫がこもっていた。
ソルはそれに負けじと、
「誤魔化さずに教えてください。いるんでしょう?」
「…神殿へ行ったと聞いて、嫌な予感はしていたが……」
と王はため息をつき、尋ねた。
「あれはまだ死んでいないのか?」
その言葉で、ソルの頭にかっと血が上った。
「貴…様ァッ……!!」
ソルは腰に帯びた剣を抜き、玉座の背に突き立てた。
王の頭のすぐ横に。
衛兵たちがざわめく中、ソルは怒りのあまり、目に涙さえ浮かべながら叫んだ。