双子の王子
冷淡に、ソルは言い放った。
その青い目は薄氷かあるいは冬空を映したかのようだった。
「殿下……」
「お前には関わりのないことだ。違うか?」
「……」
「それとも、何か知っているとでも言うのか?」
他の者は報告のためとでも言って先に帰らせたのだろう。
今、馬を走らせているのはソルとルギだけだ。
ルギは視線をさまよわせた挙句、青い顔で言った。
「…殿下は、聞いたのですか?」
「ああ」
「そう…ですか……」
「知っていたんだな」
「……ええ。彼の…いえ、ルナ様の胸を焼き、神殿へ届けたのは私ですから」
「何だと…!?」
「当時、私はまだ低位の兵卒でしかありませんでしたが、御存知の通り、父は宰相をしています。そのため、託されたのです。生まれた子供に何らかの問題があった時、対処することを……」
「……」
「まだお小さいルナ様を渡された時、私は、人知れず殺すように命じられるのだと思っていました。けれど陛下は、それを命じなかった。あの時私は……それに逆らうべきだったのだと、今度のことで思いました」
ルギの表情に悔恨の色が滲む。
ソルは驚いて、この忠実な臣下を見た。
しかしソルの予想に反した言葉を、ルギは吐き出した。
「…あの時、殺しておくべきだった……」
「なっ…!!」
「お分かりになりませんか? 彼は立派に成長している。僧正サジャの教育ならば間違いはないでしょう。きっと、名君となり得るだけの素質を持っています。サジャの千里眼ならばルナ様が王子であると言うことは分かっているはず。そうなれば、彼は貴方の邪魔にしかならないのですよ。貴方の王位の妨げにしか」
「止めろ!」
絶叫するように、ソルは言った。
恐ろしい異形の化け物にでも出会ったかのように、ルギを見た。
いや、ソルにとってルギは異形であった。
絶対に理解し得ない怪物が、そこにいた。
ルギの心に。
ルギが思うのは王子であるソルの幸福。
あるいは、王位継承者であるソルの幸福。
そして、自分とその一族の繁栄。
果てしなく人間的で、恐ろしいほど非人間的な怪物が。
その怪物はきっと、スウォードの胸の内にも巣食っているのだろう。
いや、誰の心にだっているに違いない。
しかし、ソルはぞっとした。
ありふれているはずのそれが、とてつもなくいやらしく、醜いものに思えた。
ルギは冷笑した。