くれなずむ <その2.対決!野球部>
「それじゃ、確認するけど、野球部が勝った場合、クレナがそちらの
マネージャーになるってことでOKなのよね」
「ああ、そのとおりだ」
「わかったわ。まぁ、こちらの指定条件を飲んでくれたわけだから、
生徒会としても何かサービスしなきゃぁねぇ」
フィラはニヤリと口に笑みを浮かべつつ、ミノルの方をちらりと見やった。
その視線を感じたミノルは、訝しげな表情を浮かべた。
「そうねぇ、ミノルがコスプレして試合をするってのはどう?
メイド服とかナース服とかいいかもねー」
「おお、それはいいな」
「いいわけあるかっ!」
賛同した真田の横で、ミノルから速攻でツッコミが入った。
「なに勝手に決めてんだよ。お前は!」
「いいじゃない、別に減るもんでもないしー。それに…・」
と言ってフィラは、ミノルの耳元にそっとなにかを囁いた。
それを聞いてミノルは複雑そうに、不満なのか得心したのか
いまいち判別のつかない表情を浮かべた。
「まぁ…、そういうことなら」
「ふふり。ありがとう、ミノル」
んんと咳払いをし、フィラは真田に目線を合わせ話を続けた。
「んじゃぁ、生徒会が勝った場合の条件を言わしてもらうわ」
「ああ」
一拍置いてフィラは後を続ける。
「うちらが勝った場合」
「そちらが勝った場合?」
「野球部の二学期の部費を予定の半分にさせていただくわ!」
ででーん。
「ちょっ、ちょっと待て、それじゃぁ条件がそっちだけ二つにならないか!?
クレナ君が自身がマネージャー入りを拒否するのがそちらの条件なんじゃあないのか?」
真田はフィラが突きつけた条件の内容に、猛然と抗議した。
「ちがうわね、それはアンタが勝手に決め付けた条件でしょう。そっちが負けたら、
クレナのマネージャー入りを諦めるのは当然の帰結。条件には入らないわ。
この勝負は、”生徒会自身”が受けたのよ。条件を出す権利は生徒会側にあるはずでしょ」
「モノはいいよう、詭弁だろそれは!」
うん、全く詭弁である。
「ちがうわね。こちらだって負けた場合、貴重な役員を一人持ってかれる
リスクを背負ってるのよ。むしろ、野球で勝負する分、条件含め総合的には
アンタ達のほうが有利でしょう?」
策士、詭弁を弄すである。
『エゴイズムの塊』『ファシズムの申し子』『暗黒女帝』などの渾名を持つ女、冶月フィラ。
一見でたらめだが、なんだかんだギリギリの線で筋が通っているから始末が悪い。
「いや、それは確かだが。だが、あんまりだろう部費半減っていうのは!」
そのセリフを待っていたのか、フィラの目つきが、ネギをしょってやってきた鴨を
とっ捕まえた猟師のように、ぐにゃりと曲がった。
獲物を捕らえた時のヘビももしかすると、こんな風な目つきをしているのかも知れない。
「へぇー、なぁに。もしかして素人相手に野球勝負でしり込みしてるって訳?
別にいいのよ、この試合なかったことにしてもー。こちらは全然困らないし。
だけど、この条件、飲んだほうがいいと思うのだけれど、”貴方達のためにも”」
「なんだと、どういう意味だ?」
「さぁね。いやぁ、まぁ、たとえば。”嘘も百回言えば本当になる”っていうじゃない?
一つの既成事実をたたき台にして、レトリックを展開してバッシングを行う。
いわゆる、マスコミやアジテーターの手口よね。
情報を切り貼りして観る側にミスリードを誘う。
世の中じゃそんなの日常茶飯事だし。
それに人間誰しも、やましい部分はあるものでしょう。
あなたたちはどうかしら?」
フィラはそこでちらりと真田を覗き見た。
肝心の真田は顔の筋肉をピクピクさせながら、顔面蒼白になっていた。
額からは、大量の油汗が滴っていた。
効果はばつぐんだ。
作品名:くれなずむ <その2.対決!野球部> 作家名:ミムロ コトナリ