くれなずむ <その2.対決!野球部>
ああ、さようなら。
私の純潔、私の青春…。
おーい、おいぉぃ。
クレナは滝のような涙を流して、自失呆然としていた。
その背中からはどす黒い絶望のオーラが漂って見える。
そんなこともお構いなく、ミノルはこう続けた。
「”あんなスゴイ球を投げる子、はじめて見た。
野球の経験もありそうだし、是非とも野球部にマネージャー兼
コーチとして迎えたいぐらいだ”といっていたぞ、奴は」
そうか、そうですか、あんなスゴイ球をなげた私を、
マネージャーに…、マネージャーに…。って
「へぁっ?」
クレナはミノルが口にした真田の予想外なセリフに驚き、われに返った。
「一年生で、セミロングの黒髪で。背丈はクレナと同じくらいだといってたな。
もしかして、おまえだったりしてな?」
ミノルのあまりにも的確なもの言いに、クレナはピクリと身を震わせ、
「えっ!?あ…あ、どう、どですかねぇ〜〜?おっ…おっ…おひょぉ〜ほほほ」
空々しく言った。
クレナの額を、一筋の汗が伝う。
顔面に青筋立ててつつ、引きつった笑いを浮かべていた。
一瞬の静寂。
ミノルは、そんなクレナの様子を黙ってじっと凝視して、
「まぁそう簡単に見つかるわけないよなぁ〜」
「そうですよぉ〜〜。あ、あははははは」
クレナとミノルの笑い声が高らかに生徒会室に響きわたった。
その時、生徒会室の扉が突然開け放たれた。
「入るぞ、生徒会長」
そう言って、室内に入ってきたのは件の人物。
野球部副部長の真田京助であった。
「今日話した一年生のことでな。それで、生徒名簿を見せて欲しく…・て…・」
真田の言葉が途切れた。
なにかを発見したかのような、驚きのあまり呆気に取られた表情のまま、
彼の視線は、ただただ一点を見つめていた。
その視線は、ただ一人の女子生徒に向かって注がれていた。
「いた----ッ!!見つけたぞ、昨日の一年生!」
「えっ、…えっ、ええっ!?」
突然の出来事に、クレナは呆気にとられてしまった。
自分のことを指差して距離をつめてくる二年生の先輩。
なんなのだろうか、なにをする気なのだろうか、この人は。
こちらに向かって、づかづかと歩み寄ってきたではないか。
あれか、あれですか私の立派なDカップのオムネ様を至近距離でまじまじと
ドッグファイト気味に鑑賞したあげく、
手にとって自由自在にこねくり回して、直に手で試しちゃおうって訳ですか!?
YA☆BA☆I!
気づいたそのときには、真田の手がクレナの胸元の至近距離にまでせまっていた。
あやうしオムネ様ッ!
思わずクレナは、両目をつぶってしまった。
おそるおそる、目を開けてみる。
真田が手に取っていたのはクレナの両手であった。
「部長に話はつけてある。ぜひ、我が野球部のマネージャーになってくれないか!」
「…はい??」
真田はくるりと顔をミノルの方へと向けて言った。
「ミノルッ!」
「なんだ?」
「この子をくれッ!!」
「ふざけるなバカ野郎」
さくっと拒否された。
「み…ミノルぅぅ〜〜〜〜。たのむよぉぉ〜〜〜」
と、目を潤ませ滝涙を流しつつ、懇願してくる真田。
その姿に思わず、ミノルはたじろいだ。
「い…いや、くれと言われても私にはなんとも。むしろ本人に聞くべきだろう」
そう言われて、真田は得心したという表情で、ああとうなずき、こほんと咳払いした。
「そうだったな、これは当人同士の問題。なのに、第三者に許可を求めるのは筋違いだった」
なんというか、今更という話だが。
最初からそうしろというツッコミはさておき。
作品名:くれなずむ <その2.対決!野球部> 作家名:ミムロ コトナリ