くれなずむ <その2.対決!野球部>
「うひゃわぁああああぁぁ!?」
胸を鷲づかみにされたミノルは、素っとんきょうな裏がえった声で、
階全体に響きわたるほどの悲鳴をあげた。
ミノルは、動揺した驚きの表情のまま、ばばっと椅子からたち飛びあがり、
その場にへたり込んでしまった。
「な…・ななななな…・・なッ!!?」
「こんにちはぁ〜、会長ォー。いやぁ、し・か・し!
いいモノをお持ちですなぁ〜、にょほっほっほっ」
「こ・・この…ッ!」
ミノルはワナワナと体を怒りに震わせ立ち上がると、
自分に痴漢行為を働いた馬鹿者の頭に
あらん限りの力を込めて、握りこぶしを叩き付けた。
寺の鐘を突いたかのような、実にいい音が北校舎に響き渡った。
「あいだぁっはぁ----ッ!ひどいですよぅ会長〜」
まま〜ぅと、クレナは半べそをかいて、頭の天辺にできたタンコブを
おさえて、ミノルに文句をたれた。
「ひどいのはどっちだ、バカ野郎!いきなり人の胸つかんで、
痴漢行為もいい所だぞ。オヤジかお前は!」
ミノルは後輩の文句に対し抗弁した。
そう言われて、クレナはふてくされた素振りを見せ、
ぼそりとつぶやくような小声で言った。
(挨拶して、気づかない会長が悪いんでしょー…)
「あん!?な・ん・か・い・っ・た・か・な・ぁ〜?」
効果音があれば、ゴゴゴゴ!と効果音が付いてきそうなほどの迫力ある剣幕で、
ミノルは威圧する意志を顕にし、口の端を引きつらせてクレナを睨みつけた。
「おひょッ!い、いや。なんでも、なんでもないですよぉぉーッ…!」
クレナの予想に反して、ミノルは地獄耳の持ち主であった。
読唇術でも心得ているのではなかろうか。
これ以上、火に油を注いでもなにもいいことはない。
クレナはこれ以上の抗弁は怒りを買うだけだと思い、止めることにした。
もう一発殴られて、頭のこぶを増やすの勘弁願いたい。
「すいませんでした」
「わかればいい。が、二度とやるなよ」
ミノルは、後半部を凄みを含んだ強い口調で強調して言った。
その威圧感に、思わずクレナはびくりと身を震わせた。
「は…はぁい。所で、まだ会長だけですか?フィラ姉さんもきてないようだし。
今日は委員長会議があるっていうんで、来たんですけどねー」
今日の委員長会議は、2学期の行事に関する草案を取り決める予定だ。
クラス委員長であるクレナは、その会議に参加するため、生徒会室にやって来たのだ。
「いや、フィラは会議用のプリントを取りに職員室にいったばっかりだ。
それにしても、随分と早くきたな。会議まであと15分もあるっていうのに」
「まぁ、そうなんですけど。クセなんですよね。生活習慣というか、訓練の成果というか。
うちの家って軍関係の人ばかりで、時間にはやたらと厳しいんですよ。
大型連休とかあるとキャンプと称して、訓練合宿しますし」
「へぇ、そうなのか。確かに、フィラや椎駄君も
時間には厳しいよな。きっかり守るし」
話の中で出てきた二人はクレナの家族。
一つ年上の姉、冶月フィラと、その弟でクレナと同い年の冶月椎駄。
彼らはクレナの従兄弟で、家系上では義理の兄弟にあたる。
二人とも、この羽燕高校の生徒だ。
冶月姉弟の父である椎矢は、血縁上の父親がいないクレナの身元引受人で、義理の父親であった。
作品名:くれなずむ <その2.対決!野球部> 作家名:ミムロ コトナリ