小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

私のやんごとなき王子様 三島編

INDEX|35ページ/46ページ|

次のページ前のページ
 

「水原さんっ!」

 宿舎へ戻る途中の林道で、水原さんに追いつく事が出来た。声を掛けたものの、次に繋げる言葉が見つからない。
 私の呼びかけに足を止め、こちらを振り返った水原さんの表情はいつもと同じく凛としていた。

「どうかしましたか? 会長は?」
「えっ、あのっ……」

 口ごもる私に、水原さんは涙に濡れた瞳のまま微笑んだ。

「私を心配して下さったんですか?」
「その……」
「ふふっ」
 
 躊躇う私の肩を、そっと水原さんが叩いた。

「私なら大丈夫です。ですから会長の元へ戻って下さい。会長、ああ見えて今日の花火大会楽しみにしてたんですよ?」

 ああ……。
 水原さんの言葉に無意識のうちに私の頬を涙が伝った。
 この子は……本当に三島君だけを見て……三島君の幸せだけを願ってる……!

「水原……さん……」
「泣いてたら会長がまた悩んじゃうじゃないですか」

 そう言って私にそっとハンカチを差し出してくれた。

「ごめ……ありが……」

 そのハンカチを受け取って、溢れ出る涙を抑え込む。

「あ、ほら。会長だ」

 水原さんは私の背後に視線を向けると、もう一度微笑んだ。

「会長の事、よろしく頼みます」

 そう言うと、くるりと踵を向けて去っていく。
 肩に残った水原さんの温もりが、私の心を突き刺していく。

 水原さん……!

 私なんかより、あなたの方がずっと……!

「小日向君!」

 背後から三島君の声が聞こえると、私はもう一度だけ水原さんのハンカチで涙をぬぐった。
 水原さんの気持ちを無駄にしたくない。

「三島君」

 にっこりと笑顔を作って、私は彼の人に向って片手を上げた。

 花火はまだ――終わらない。