私のやんごとなき王子様 三島編
日もすっかり沈んだ夜の海はとても静かだった。
夜空には星が瞬いている。
南の空に浮かぶ赤い星がひときわ輝いて見える。
なんだか三島君みたいだな――。
周りとは少し違うけれど、静かに主張して輝いている。
「アンタレスが好きなのか?」
三島君が私の視線に気付いて声をかける。
そっか、あれがアンタレスか。
「うん、好き」
「そうか」
波の音と私達の声だけが聞こえる空間。
星を好きと言うのはこんなにも簡単なのに、人を好きと言うのは何故こんなにも難しいのだろう。
でもそれを水原さんは成し遂げたんだな……。
水原さんに昨日告白されたばかりだと言うのに、どうして三島君は私を誘ってくれたんだろう? 私なんて彼女より優れている所なんか、何も無いのに……。
――ダメだな。静かな空間にいると、次から次へと疑問ばかりが湧いてしまう。
「小日向君、実行委員に入ってくれて有難う」
静けさを破るかの様に三島君が声を発した。
「ううん、私の方こそ誘ってくれて有難う」
「いや」
…………。
再び沈黙が支配する。
言いたい事はたくさんあるのに、言葉が喉を通過してくれない。
本当はもっと――
作品名:私のやんごとなき王子様 三島編 作家名:有馬音文