私のやんごとなき王子様 三島編
鬼頭先生の待機している医務室にノックをしてから入室する。
「鬼頭先生……?」
「なんだ」
「わぁっ!」
思いのほか近くから聞こえてきた声に、思わずびっくりして声を上げてしまう。
だってドアのすぐ傍にいるんだもん。
「わぁ! とはご挨拶だな、小日向」
うっ、怖い怖い怖い。
「えっと、三島君が船酔いしたみたいなので……」
「ほう。中に入れ」
「はい、失礼します」
「……い……ます」
私の後に続いて、三島くんも小さな声を零した。本当に辛そうで心配になる。
ヨロヨロとした足取りの三島君をベッドに寝かせると、鬼頭先生が診察を始めた。
なんかこうやって見ると本当に保健の先生なんだなあ。いつも憎まれ口叩いてる姿しか見ないから忘れてた。
「なんだ?」
「え?」
「さっきからジロジロと、俺の顔を盗み見て楽しいか? あんまり見てると金取るぞ」
「ええっ?」
具合の悪そうな三島君が、そんな鬼頭先生の言葉を聞いて増々眉間の皺を増やした。
ほら、呆れてるよ三島君が。てか私、そんなに見てた? ーーよね、だって真面目な鬼頭先生見たの初めてなんだもん。
でも何かやっぱりムカつく。
チラリと一瞬私を横目で見ると、先生はニヤリと笑った。
「三島、お前も大変だな、こんなのが実行委員でお前も苦労するだろう?」
「むっ……。先生! 私の事はどうでもいいから三島君をちゃんと見て下さい!」
「ほら、うるさいし、ドジだろ?」
また余計な事を。と言おうとしたら、三島君が反論してくれた。
「そんな事、ありません……彼女は、よくやってくれてます……」
三島君の言葉がすごく嬉しい。そんな風に言ってくれるなんて、実行委員を選んで良かった。って感動した――のに、
「まったく、お前は生徒会長にまで気を遣わせるとはな。三島、もしいらなくなったらすぐに捨てていいぞ。きっと真壁が骨を拾ってやるだろうからな」
もうっ! どうして私をいじめないと気が済まないのかな、この人は!
「私だって少しは役に立ってます!」
「ふっ、どうだかな」
思いっきり睨んでみたけど全然効果はなくて、鬼頭先生は涼しい顔でカルテにペンを走らせた。
作品名:私のやんごとなき王子様 三島編 作家名:有馬音文