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私のやんごとなき王子様 利根編

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 廊下を歩きながら、私は無意識のうちにため息を吐いていた。

 ホールを埋め尽くしたお客さんの多さに、無事に劇が終わって欲しいと、出演する訳でもないのに緊張したからだ。

「緊張、してるの?」
「えっ……」

 利根君は私のため息に気付いたらしく、優し気に微笑んだ。

「あ、うん……無事に終わって欲しいなって」
「大丈夫だよ。皆あんなに一生懸命頑張ったんだから、きっと成功する」
「――そうだよね」

 利根君の言葉は静かなのにとても心強かった。
 私はギュッと拳を握りしめ、隣りを歩く利根君を見上げて笑った。


*****

 私は客席や舞台袖から沸き起こる大喝采を遠くに聞きながら、しばらく呆然と立っていた。
 舞台の上では美しく舞う白鳥達が踊るように清らかにどこかを見つめている。
 ジークフリートとオデットは、命を落としてしまったけれど、きっと幸せだった。

 風名君と亜里沙様の演技を見て、私はそう確信していた。

 知らずに握っていた幕は汗で湿気を帯びていて、ゆっくりと降りて行く緞帳(どんちょう)がぐにゃりと歪んで見えた。

 私は泣いていたのだ。