私のやんごとなき王子様 利根編
舞台は大成功を納めた。
風名君と亜里沙様達出演者は、カーテンコールに3回も答えていた。
「凄かったなあ……」
すっかり誰もいなくなった劇場の舞台の上で、私は目をつぶって今日一日を思い返していた。
舞台の上で劇を演じる出演者、音響、照明、演出、大道具、小道具、全ての生徒がこの一日の為に全力を注いだのだ。目を閉じるとまだあの拍手の雨が耳のすぐ側で聞こえる。
こんなに感動したのは、それだけ思いがこもっていたからなんだ。
利根君が作った亜里沙様の衣装はそれは素晴らしい出来映えで、舞台の上でさらに輝いていた。亜里沙様の衣装だけじゃない、他に利根君の手を通して作り上げられた衣装や小物は、どれも輝きが違っていた。
綺麗で、力強くて、優しくて……
本当に凄い人だね、利根君。
キュッと床を踏み鳴らす音が聞こえ、私は立ち上がった。
「……利根、君―――?」
あまりの衝撃に、驚きを通り越して何の感情も湧いて来なかった。
どうしてここに利根君が?
舞台袖から現れた利根君は、ぐるりと舞台を見回しながら私の目の前で足を止めた。
「お疲れさま」
「うん……」
私は忘れ物をしたのを取る為に、真壁先生にお願いして少しの時間だけ劇場に入る許可を貰っていた。そのついでに舞台にこっそり上がっていたから、利根君に見つかって少し恥ずかしい。
「佐和山さんに小日向さんは忘れ物取りに劇場に行ったって教えてもらったからさ」
「そ、そうなんだ。何か用でもあった?」
「うん。とっても大事な用があってね」
「とっても大事な用?」
思わずおうむ返しになった私に、利根君が微笑む。
ああ、なんて綺麗な笑顔なんだろう。
私はその顔に見蕩れる。私の大好きな優しい笑顔。
作品名:私のやんごとなき王子様 利根編 作家名:有馬音文



