私のやんごとなき王子様 利根編
夕食後、まだ作業が残っていた私は作業部屋へ戻っていた。
部屋の電気は付いていたけど、生徒は誰もいない。
ちょっと寂しいけどま、いっか。
私は静かで集中出来るといい方向に考えてミシンを動かし始めた。
どれ位時間が経った頃か、足元に置いていた新しい生地を取る為にしゃがんだ時だった。
ガチャリと部屋のドアが開く音がして、話し声と足音が中へと移動して来た。
次にバタンとドアが閉まり、再び静かになった部屋の中で男女2人がいるということが分かった。
ど、どうしよう。出るに出られないけど……
そっと机の下から顔を覗かせると、なんとそこには利根君と水原さんがいた。しかもとても緊迫した雰囲気だ。
ゴクリと唾を呑み込み、そっと机の下に身を隠す。
全部聞こえてしまうんじゃないかってくらい、心臓がドキドキと鳴っている。
「それで、大事な話しって、何?」
利根君だ。
しばしの沈黙の後、水原さんの緊張した声が響いた。
「あの、私……利根君の事が好き、なの―――」
えっ?
思わず声が出そうになり、私は自分の口を慌てて塞いだ。
作品名:私のやんごとなき王子様 利根編 作家名:有馬音文