私のやんごとなき王子様 利根編
部屋を出て衣装作成部屋へ行くと、まだ来ている人は少なかった。
あ、利根君。
そんな中、利根君はもうすでにミシンを動かしている。
「おはよう、利根君」
私が声をかけると、利根君が顔を上げて微笑んだ。
「小日向さん、おはよう。早いね」
「利根君の方が早いじゃない」
手を止めて小さく息を吐くと、利根君は自分の前の椅子を私に勧めてくれた。私が椅子に座るのを確認して話しを続ける。
「俺はちょっと急ぎで作らないといけないものがあったからね。あ、そう言えば玲が、昨日の夕食のハンバーグがすごく美味しかったって褒めてくれたよ」
「本当? やっぱり美味しいって言ってもらえると嬉しいよね」
会話をしながらもやっぱり少し疲れているのが分かる。
そうだねと相づちを打つ利根君に、私は持っていた野菜ジュースを渡した。
本当は作業中に飲もうと思って部屋から持って来てたんだけど、疲れてる時はビタミンかな。なんてふと思ったから。
「あのね、これ。良かったら飲んで」
急にジュースを渡されたものだから、利根君は驚いた。
「え? でも、これ小日向さんのじゃ……」
「いいのいいの、私のは部屋にまだあるから! これ結構美味しいんだよ。それじゃあ、またね」
半ば強引に利根君の手にジュースをねじ込んで、私は自分の席へと急いだ。
自分の席に座って作業の準備を始めた所で一度利根君の方を見ると、利根君も私を見ていて、にっこりと笑ってジュースを小さく振ってくれた。
ありがとうって事だよね。
たまには私の食い意地(?)も役に立つな。
少しだけ嬉しい気持ちで、その日の作業をすることが出来た。
作品名:私のやんごとなき王子様 利根編 作家名:有馬音文