私のやんごとなき王子様 利根編
やっぱり利根君って器用なんだな。こんなに何でも出来ちゃう男の子ってすごく素敵だけど、彼女は大変そう。だって自分よりも料理や裁縫が上手だなんて、他に何を武器にすればいいっていうのよ。亜里沙様みたいな美貌もないし、水原さんみたいなしとやかさもない。ごくごく普通の女の子なのに――ってあれ? 利根君って彼女いるのかな? もしいたら噂が広まってるはずだし、聞いたことないからきっといないんだろうけど。
だけどこれだけ完璧な人は一体どんな人を好きになるんだろう。やっぱり、水原さんみたいな大和撫子タイプ。かなあ……。
ああもう、何考えてるのよ私! ぼーっと立ってないで仕事しよう! うん、そうしよう!
私が利根君と少し距離を置いて大きなボールにひき肉を入れ、卵をどんどん割っていると、利根君が話しかけて来た。
「こうやって一緒に食事当番っていうのも楽しいね」
「あ、うん。そうだね」
「去年も一昨年も小日向さんとは担当が違ったから、こんなにたくさんしゃべれて楽しいよ。やっぱり小日向さんって面白い」
「え? 面白い?」
それって褒め言葉?
私がパン粉と牛乳とナツメグをボールに入れた所で利根君の言葉の意味を考えていると、見事みじんに切られたタマネギを利根君がボールに投入した。
「さ、ここも代わるよ」
「いいよ、私混ぜるの好きだから!」
これ以上利根君に仕事をさせる訳にはいかないもん。
私はボールを体で隠すように押さえて豪快にタネをこね始めた。それを見て利根君がまた笑う。
「くすっ。やっぱり面白い」
「え〜? 面白いって、それって喜んでいいことなの?」
私が少し恨めしそうに見たからか、利根君はすぐに頷いた。
「もちろん。俺、女子でこんなに一緒にいて楽しい子他にいないもん」
……や、やだ、私の顔赤くないよね? 利根君が私と一緒にいて楽しいって言ってくれた……夢みたい。
作品名:私のやんごとなき王子様 利根編 作家名:有馬音文