私のやんごとなき王子様 利根編
6日目
昨日はまた落ち込んじゃったけど、さなぎのおかげで元気になり、頭痛が嘘のようにスッキリと目覚める事が出来た。
そして今日も朝から衣装や小物と格闘中だ。
一段落ついた所で窓を開けて空気を入れ替えながら、眼下に広がる真っ青な空と海をどこまでも広げる景色を見、大きく息を吸い込んだ。
「はあ〜。気持ちいい」
朝から調子のいい私は、作業も面白いようにはかどっていた。
おかげでこうやって気分転換に空気の入れ替えをする余裕もあるんだけどね。
でもあまり長い時間開けてたら風が吹き込んで生地が飛んだりしてもいけないから、私は海の匂いを肺にいっぱい溜め込んで窓を閉めた。
室内に視線を戻すと皆さすがに作業に集中してて、それは違うとかこっちが先だとか言う悲鳴にも似た声が飛び交っていた。部屋に出入りする人も多いし、映画で見たような野戦病院状態になっている。患者さん役が布って所は平和的で救いだよね。
そんな中、ふと利根君と親しげに話す女子の様子が向こうに見えて、その子が一瞬こちらを向いてすぐに反らした。
え? ……何?
私と目が合った子は確か利根君と同じクラスの子で、実家が日本舞踊の宗家とかだと聞いたことがある。和風な彼女は利根君とすごくお似合いで、大和撫子って言葉がピッタリだ。
私も彼女みたいなら利根君の隣りにいても浮かないのかなあ……。
そんな事を考えながら、取りあえず作業に戻った。調子がいいとはいえ、仕事はまだまだ山積みだ。
そして昼休みが近くなった所で、小道具の監督をしている先生から昼食後、数時間海で遊ぶ時間を取ろうという提案がなされた。
これからますます忙しくなるから、その前に小休止をさせて気持ちをリフレッシュさせようという目的があるみたい。
もちろんその提案にはほとんど全員が大喜びで賛成した。
私も大きく手を挙げて賛成の声を上げたのだった。
だってせっかく目の前に海があるんだもん、入らなきゃ損だよね!
作品名:私のやんごとなき王子様 利根編 作家名:有馬音文