幻想を盗む(仮)
黒い影は、シーアンよりも大きく見えた。
そして、叩き割られたガラスケースの破片が、その影の周りで散乱している。叩き割っただけでも随分なことだというのに、何故警備が来ないのだろう。聴こえていないのだろうか。
だが、今のシーアンにとってそれはどうでもいいことだった。彼の目に映る、影が手にしている巻物状のものこそ、シーアンが今その目で確認したくてやまないものであり、この町の最重要文化財というべきものの1つであるのだ。それを無断で手にしていると、いうことは。
(泥・・・棒・・・?)
シーアンの脳裏にはそうとしか思えなかった。だが、口に出すことはできなかった。
その黒い影は、忍び込んできたシーアンをみるとたちまち身を動かした。シーアンは、一瞬その影が溶けるように消えたように見えたのだ。
しかしその予想は、布か何かで口を塞がれたことで覆された。
黒い影は、瞬き1つとしかいいようのない素早さで、シーアンの目の前に音もなく走り寄ると、彼の口を塞いだのである。
黒い影は、黒いマントを纏っていた。そして彼の口を塞いでいたのは、手だった。
「・・・」
そしてシーアンは見た。黒いマントの間から見えた影の「正体」を。