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私のやんごとなき王子様 土屋編

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「土屋君! せめて荷物くらい持たせて」

 何とか土屋君に追いついてそう言うと、彼は実に不機嫌そうな顔で私を見つめた。

「君にこんな重たい物を持たせるだなんて、何を考えているんだ? 君がこんな物を持つだなんて、あり得ない。君には似つかわしくない」

 なんて事を言っている。
 私を最初に荷物持ち扱いしたのはどこのどなたですか!? なぁんて突っ込みたい気もするけど、そんな事も全部懐かしい。

「君の手が触れるものは決まっている」
「何?」

 私の問いに土屋君はとても綺麗な笑顔で言葉を紡ぐ。

「絵筆と僕の左手さ」

 そうして空いている方の左手を私に向けて差し出した。
 私は無言のまま、だけど込み上げる笑みを抑えられないで微笑みながら、その左手をそっと握りしめた。



 ――――演劇祭の時に土屋君が描いた白鳥達の湖は、その後‘新生 土屋奏’の芸術として注目され権威のある美術賞を受賞した。
 土屋君へのマスコミの注目度はそれまでとは比べ物にならないほど高くなって、土屋君の新作が完成する度に大勢のマスコミが押しかけてくる。「さすがは土屋家のご子息!」なんて言いながら。
 でも当の土屋君はそんな事、気にも留めてないみたい。

「僕は僕の描きたい物を描くだけだよ。そしてそのイマジネーションはいつも――美羽、君がくれるんだ」

 そんな風に笑ってる。




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