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私のやんごとなき王子様 土屋編

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「さ、入って」

 そう言って土屋君が開けた扉は、彼専用のアトリエへの扉。
 土屋君と付き合う事になって以来、私達は毎日のようにここに寄ってはお互いの思うままに作品を作っている。

 室内の中に無造作に設置されたテーブルに、私の画材の入った袋をドサッと置くと、土屋君は自分のカンバスの前へと向かった。

「有難う、土屋君」

 そう言って私も彼のカンバスの前に立つ。
 
――――今、土屋君が描いているのは美の女神ビーナス。
でもその顔は……。

「土屋君、これって……」
「君だよ、美羽」
「……やっぱり」

 私がモデルじゃ、とてもじゃないけどビーナスには程遠くなりそうな気がする。

「不満?」
「不満っていうか」
「僕にとってはビーナスもマリアも美羽しか考えられないよ」

 そう言うと彼は、そっと私を引き寄せた。
 
 本当に困った人だな――そんな風に思いながら、私はそっと彼の温もりに体を預けた。


 永遠なんて何一つとしてないけれど、それでも――
 この命が尽きるその瞬間まで、私はあなたとこうしていたい。

 





私のやんごとなき王子様 ――土屋編――   了