私のやんごとなき王子様 土屋編
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どこへ行くのかと思いながらも着いていくと、いつの間にか学園の裏庭に来ていた。
辺りに人影は無い。
「土屋君、お疲れ様。すごく良かった」
私がそう言うと、土屋君はピタリと足を止めた。
「なぜ僕の絵があんなに素晴らしかったか分かるかい?」
そんな事をいつもの調子で急に訊ねる。
「なぜって……土屋君が描いたから、素晴らしいのは当然じゃない」
私も思った通りの事を口にした。
だって土屋君の芸術は本当に凄い。この10日間一緒にすごして、その凄さが私の網膜にはしっかりと焼き付いている。
「違うよ」
だけど土屋君はあっさりと否定した。
「僕の絵はこの演劇祭以前に描いたものと、今回演劇祭の背景として描いたものとで、大きく変わっているんだ。その理由が分かるかい?」
「……分からない」
分かるはずも無い。
確かに土屋君は合宿期間を通して、チームワークのようなものを身につけたとは思う。だけど……それは答えじゃないと思った。
作品名:私のやんごとなき王子様 土屋編 作家名:有馬音文