私のやんごとなき王子様 土屋編
11日目
「ふー。終わったね〜」
大量の荷物を抱えた私とさなぎは、フェリー乗り場へと向かっていた。
合宿も無事に終わり、今からまた船に乗り込み学園へと帰るのだ。
とはいっても学園へ帰った後、今日はすぐさま解散。各自、合宿で溜まった疲れを癒す意味も込めて、自宅へと帰宅する事になっている。
明日は本番一日前。明後日はいよいよ本番だ。確かにこの辺で一度、体を休めないとキツイかも。
上手く日程組まれてるなぁ、なんて感心しながら私は船に乗り込んだ。
甲板から宿舎を振り返る。
この1週間、長いようで短かった。
「君」
「――土屋君」
最後尾の甲板で段々と遠のいて行く島を見ていた私に、土屋君が声を掛けてくれた。
こんな風にたくさん土屋君と会話する事になるだなんて、10日前まで思いもしなかった。そして、
こんなに好きになるなんて事も――
「合宿が終わるね」
「うん」
隣りで私と同じように手すりに手を掛け、しばらく無言だった土屋君が遠くなっていく島に目を細めながら呟いた。
…………。
会話が途切れてしまった。
その間も私の頭の中では昨日、土屋君が水原さんに言った言葉が繰り返されていた。
『あなたに思われても迷惑なんだ』
私も告白をしたら、あんな風に否定されてしまうのだろうか。それを思うと、土屋君の隣にいるという‘今’がひどく重く感じられた。
「本番まであと二日だ。今日はゆっくり休むんだよ」
沈黙が続いた後、とても優しい声で土屋君がそう言った。
え? と思って隣を見ると、すでに土屋君は踵を返して客室の方へと歩き出していた。
「土屋君!」
その背に向って声をかけると、ピタリと土屋君の足が止まる。
「有難う!」
少しだけ声を張ってそう言うと、土屋君は右手を軽く上げて返事をし、また優雅な足取りで奥へと歩いて行った。
作品名:私のやんごとなき王子様 土屋編 作家名:有馬音文