私のやんごとなき王子様 土屋編
土屋君……気にしてくれたんだ……。
少しだけ心の底が温かくなった気がした。水原さんの事も気になるけど、今は高校生活最後の演劇祭に向けて、気持ちを切り替えよう。
もう一度私は宿舎の方を仰ぎ見た。気付けば島は野球ボールくらいの大きさにまで遠くなっていた。
私はここで経験したたった1週間の出来事を、一生忘れないだろう。
それから何事も無く無事に学園に戻り、校長先生の話を聞いた後、私は帰路についた。
校門には相変わらずの高級車の群れが出来ていたけど、私とさなぎには関係ないもんね。
くやしいかなさなぎは彼氏の米倉君と一緒に帰るといういうので、気を利かせて私はせっせと自分の足で歩き、1週間ぶりの我が家へと一人戻った。
「ただいま〜」
「お帰りなさい!」
玄関ですぐさまママが迎えてくれた。
久しぶりの自分の家の空気に、心からホッとすると同時に、疲労がどっと全身を襲う。
うん、今日はぐっすりと眠れそう。
そして目覚めたら、もうひと踏ん張り頑張らなくちゃ。
ベッドに入ると、頭の中で色んな事が渦巻いた。
演劇祭の事、土屋君の事、水原さんの事――――
たくさんの思いが網膜の裏を横切るのを感じながら、私は眠りについていった。
作品名:私のやんごとなき王子様 土屋編 作家名:有馬音文