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私のやんごとなき王子様 土屋編

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9日目


 昨日、水原さんの告白を聞いてしまって以来、私の頭の中からは二人の事が離れなくなってしまっていた。

 土屋君はあの後、何て答えたんだろう? 筆を取りながら、二人の様子をそっと盗み見る。土屋君は相変わらず自分の世界にどっぷり浸かっているように見える。水原さんはというと、少しだけ土屋君と距離を置いているように見えた。
 それでも水原さんは、視線だけはよく土屋君を追っている――って何を人の観察ばかりしているんだろう! 私が観察しなくちゃいけないのは人間なんかじゃないじゃない! ひとつ頭を大きく振って、私は改めて作業に集中した。



*****


 夕食の後も作業は続けられていたけど、一人、二人と自室に戻って行き、最終的に作業部屋には私と土屋君だけになってしまった。
 別に狙ってやった事では無いのだけれど、どうしてもキリの良い所まで――って思っていたら、こんな時間になっていたのだ。

「ふーっ」

 なんとか納得する形になれて、一つ大きく息を吐いた。

「終わったかい?」
「あ、うん。何とかね。土屋君は?」
「僕はとっくに終わってるよ。君が終わるのを待っていたんだ」

 え?

 どうして? なんて思うまでも無く答えはすぐに与えられた。

「さ、海に行くよ」
「えぇ!?」
「僕は君と海に行くために、君の作業が終わるのを待っていたんだ。まさか断るなんて事はしないだろうね?」
「そ、そりゃ勿論ご一緒させて頂きますけれども……っていうか、それならそうと早く言ってくれれば良かったのに」
「早く言ったら早く済ませたのに――かい? それじゃあ意味が無いよ。君の芸術が中途半端なものになる」
「は……はぁ」

 ためらいがちに頷いたけど、本当は凄く嬉しい。土屋君が私が終わるのを待っていてくれた事――それと、私なんかの描いた物を‘芸術’という中に入れてくれていた事。そのどちらもが、塞ぎぎみだった私の心を弾ませた。って、ゲンキンすぎるかな。