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私のやんごとなき王子様 土屋編

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 夜の海はとても静かで、夜空にはこれでもかと言わんばかりに星々が輝いている。

「綺麗」

 思わず私の口からそんな言葉が零れ落ちる。

「美しい物を素直に美しいと言えるのは素晴らしい事だよ」

 そんな私の言葉を拾って、土屋君が声を被せる。

「僕はね、君の絵が嫌いじゃない」

 土屋君が夜空を見上げながら、ふいに語り始めた。

「去年、美術の授業で描いた絵が廊下に張り出されていた事があったろう? あの時、ひときわ僕の目を奪う作品があったんだ。誰だろうって名前を確認したら君だったんだけど」

 確かに去年の冬頃だったかな? 美術の授業で描いた絵が数週間廊下に飾られていた。勿論、私の絵だけじゃなくて、他にも30人ほどの絵が飾られていたはずだ。中でも土屋君の絵は一番目立つ所に飾られていた。私はそんな土屋君の絵を見て、綺麗だなって心奪われた事を思い出した。

「君の絵にはね、心があると思った。対象に対する心が込められていた。僕の絵とは根本的に違うんだ。僕の絵にはそれが無い」

 そこで土屋君は一度言葉を切った。

「だけど、僕にはどうしたらそれを入れられるのかが分からないんだ。だから今回、君を誘った。君と一緒に演劇祭の準備期間を一緒に過ごせば、何か分かるんじゃないかって……そう考えたんだ」

 そんな風に私の描いたものを受け止めてくれてたんだ……。

「少しずつだけどね、分かってきた気がするよ。だから今度の演劇祭の大道具は僕が今まで描いてきたものの中で、最高のものになるだろうと思っている」
「うん、私も凄く良い物が出来ると思ってるよ」

 私がそう言うと土屋君は小さく微笑んだ。

「去年までも僕は演劇祭の担当は大道具だったんだ。それに疑問を感じるまでも無かった。この僕が描くのは当然だってね。他の担当者達になんか興味も無かった。僕は僕の世界を作り上げるだけだって、そう思ってた。でもさ」

 そう言うと、土屋君は私の手を握った。繋がれたその部分から土屋君の熱が伝わってくる。早まった鼓動を悟られまいと、私は必死に平静を装った。

「でも今回は違う。今回は君や他の皆の世界も崩したくはないと、そう思うんだ。この僕が、他の人間の描いたものにまで神経を配っているんだよ? おかしいだろう?」